第83話 上流階級のパーティーに招待してもらえない?
ネルの視線が目の前の硬貨から、それに見入られている仲間の女たちのほうに向けられた。
目があったのか、年長の女性がわざとらしくへりくだって言ってきた。
「ネル、いい話しじゃあないかい。これを受けないなんていう手はないさ」
「あぁ、そう、そう。こんなチャンス二度とないよ。友だちとして言わせてもらうけどさぁ」
「そうよ。あたいら友だちでしょう。こういうときには友だちの言うことをきくのもいいと思うよ」
年長の女性に続いて、ほかの仲間たちもアドバイスを口にする。が、そのあいだ、スピロの手元の巾着袋にちらちらと目線が送られている。
どうやらそれに気づいたネルは、ふいにそんな大金をもったあとのことに考えを巡らせたようで、あわててスピロに提言してきた。
「どうにも気に入らない。うまい話しすぎるわ」
その目が仲間の女性たちを牽制しているのだと、スピロはすぐに気づいた。
「ただ、アタシの夢を叶えてくれるんだったら、話しに乗らないことはないですけどねぇ」
「夢……ですか?」
「ええ。アンタたち、そんなドレスを着るような方だから、雑作もない話だと思いますけどねぇ」
「なんでしょうか?」
「アタシを……、そのぅ……、あのぉ……、上流階級のパーティーに招待してもらえませんかぁ」
そう言いながらネルは、仲間にわからないようにスピロにウィンクをしてきた。
「上流階級のパーティーに?」
「アンタたちでしたら、どっかの貴族か大富豪の知り合いはいるでしょ?」
「いえ、ネル様。わたくしたちは異国人ですので、イギリスに知り合いはおりません。残念ながら、その夢を叶えてあげることは……」
「そうなの?。なによぉ。金があるっていうだけ?。なんかやっぱり信用できないわぁ」
ネルはさきほどより、まちがいなく不機嫌そうな顔つきになった。セイはこのままネルの協力を得られないのではないかと思い、あわててコナン・ドイルに尋ねた。
「ドイルさん。あなたの知り合いで貴族とか大金持ちとかいらっしゃらないですか?」
「なにを言ってるんです。あたしゃ、町医者ですよ。それも全然はやっていないね。どこをどう見たら、あたしにそんな立派な知人がいるなんてことがあるんです」
「そんなの簡単じゃねぇか」
マリアが勝ち誇って言った。
「オレたちが大枚はらって、パーティーを開きゃいいだろうさ。金なら無尽蔵にあるから。な、エヴァ」
「マリア様。お金の問題でどうにかなるものではありませんよ。いったい全体、見知らぬ異国の者が勝手に開くパーティーにだれが来るというのですか?」




