第77話 アーサー・コナン・ドイル!
借りられた二部屋は、結局、男性と女性にわけて使うことになった。ひとごこちついたところで、イースト・エンドの下見をすることになった。
スピロがセイたちと一緒に階下におりていくと、ターナー夫人の部屋から、男性の声が威勢よく聞こえてきた。
「ふた部屋とも貸したンですかぁぁ」
その口調には精いっぱいの抗議を込められていたが、非難めいた色合いよりも、なにかをなげいている感情がこもっているように聞こえた。
「そう言われましても、こちらも生活がありますからね。あぁたのように口約束をされても、いつまで経ってもお金を用意できないのでしたら、仕方がないのじゃありません?」
「ですから、あたしのですね。本がもうすぐ売れる予定があるンですよ。それで工面するから、待っててくれと言ってたわけで……」
「その前の本も売れるって言ってましたわよ」
「あ、いや、あれは……」
「売れてないンざましょ」
うっすらとターナー夫人の部屋の扉は開いていたが、先頭をいくセイはちらりと内部に視線を移しただけで、そのまま通り過ぎた。うしろに続くマリアやエヴァは、端っからそんなことには興味ないとばかりに、足音をたてないよう注意して、そろりと通り抜けていった。ゾーイもちらりと扉を見ただけで、そそくさとあとに続く。
はからずも最後尾を務めることになったスピロも、セイたちにならって部屋のなかの揉め事に関わらないつもりだった。が、一瞬、部屋の内部がかいま見え、ターナー夫人と揉めている口髭をはやした若い男性の顔を見たとたん、心臓がとまりそうになった。
気がつくと扉に手をかけ叫んでいた。
「アーサー・コナン・ドイル!(29歳)」
自分の名前を叫ばれた男は目をパチクリとさせて、いきなりの闖入者であるスピロを見つめていた。
「どうして、あたしの名を?」
「そうですよね。あなた、コナン・ドイル様ですよね」
スピロは勢い込んで部屋のなかに踏み込んだ。それが飛びかかりそうにでもみえたのか、コナン・ドイルはうしろにあとずさりした。ターナー夫人が口元に手をやって、驚いた表情でスピロに尋ねた。
「あらぁ、クロニスさん。あぁた、このお医者さんを知ってるの?。患者さんかなにかだったのかしら」
それを聞いて冷静になったコナン・ドイルは、まじまじとスピロの顔を見つめてから、首をひねった
「はて?、あたし、あなたを診察したことありましたっけ?」
「いいえ、わたくし、患者ではございませんでしてよ」
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