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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第72話 シャーロック・ホームズのいるところ

 その家賃は全費用込みで週3ポンドから4ポンドほどだったらしい。

 1ポンドは現在の価値(2000年頃)で24000円ほどに当たるので、週4ポンドなら下宿代は月額40万円、年間では208ポンド、日本円で500万円になる。大英帝国の退役従軍軍医の傷痍(しょうい)年金は一日あたり11シリング6ペンス、日本円で14000円弱(年収で500万円、月収41万円)で、ワトソンはそれなりの年金があったが、ウエストエンドに住むとなると、さすがに厳しいところだった。

 ホームズとワトソンが部屋をシェアせざるを得なかったのも、こういう事情がおおきかっただろう。下宿代には食事代が含まれていたとはいえ、約40万円の下宿代をホームズと折半しても、年金だけでは余裕がある暮らしはできなかっただろう。

 だがふたりが同居をはじめると、ワトソンはホームズを尋ねてきた依頼人の診察や、ワトソンの執筆する『シャーロック・ホームズ譚』の版権で、すぐに潤うようになる。

 ワトソンは『瀕死の探偵』のなかで、こう述べている。


「ロンドン中でこれほどひどい下宿人はいなかった。けれども一方、下宿料の支払いは、おおまかなものだった。わたしが同居していた何年かのあいだに、ホームズが部屋代に支払った金額で、おそらくあの家を買いとることができただろうと思う」


 名声がたかまると同時に、本も売れ、ふたりはそうとう羽振りがよくなったようだった。ワトソンが『四つの署名』事件で知り合ったメアリーと結婚し、パディントン地区に医師の開業権を買い取り、診療所を開業するが(【株式仲買店員】)、その資金はホームズ譚の版権と『ボヘミアの醜聞』で手に入れた500ポンド(1200万円)とされている。


 そのシャーロック・ホームズが住んでいたものと、ほとんど(たが)わぬ風貌の建物に、スピロは思わず息を飲んだ。

 あまりに雰囲気があるため、「221B」という表札がかかっていないほうが、不思議なほどにすら感じる。当時、このベーカー・ストリートの長さは、現在の三分の一程度の、400メートルほどしかなかったので、ここで貸間が見つかったのは、運が良かったとしか言えない。

 1863年に世界初の地下鉄の駅がここにできたことで、閑静で高級な郊外住宅地だったものが、商店と中流階級向けの住宅が建ち並ぶ繁華街に変貌し、憧れの街となっていたからなおさらである。


「これはよいところを見つけてくれました。特別な場所に思えます」

「は、なにをそう興奮しているのかわからねぇが、この並びの建物はどこもおなじツラをしているようにしか見えねぇぜ」

「よいのです。マリア様。ここにわたくしたちの拠点を構えられることが重要なのです」

 スピロは自分のなかに膨らむ期待を抑えながら事務的に答えたが、エヴァがあきれかえるような口調をスピロにむけた。

「ずいぶん思い入れがあるようですわね。そんなにこだわる必要があるものですか?。まあ、イースト・エンドからはかなり離れていますし、あたりに緑もあって環境はわるくはないと思いますが……」

「問題は借りられるかどうかだろ?。あたいらにさ」

 ゾーイが最大の問題点をこともなげに呟いた。

「たしかにな。この人数、東洋人も混じっている外国人の集まり、しかも未成年だ」

 マリアが皮肉たっぷりに言うと、エヴァがため息まじりに言った。

「高くつきそうですわね」


 だがスピロにはそんな障害など、瑣末しかなかった。


「えぇ、たぶん。でもエヴァ様ならなんとでもなるでしょう。お金で片が付くのなら」

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