第69話 世紀の連続殺人事件ショウの幕があくと云ふのだね
「それは剣呑な咄だね」
スピロたちから自己紹介を受けたあと、事のあらましを聞くと、リンタロウは恐れおののきながらも興味をしめしてきた。マリアが初対面で、自分のペンネームを言い当てたことで、こんな荒唐無稽な話ですら、疑うことなくすんなり信じたようだった。『未来からきた』というのは、物書きにとって、これほど魅力的なことはないのかもしれない。
「それでは、あと三週間のちに、世紀をゆるがす連続殺人事件の『ショウ』の幕があくと云ふのだね」
リンタロウはゾクゾクとした様子で声をはずませた。
「まぁ、すこし不謹慎な言い方ですが……」
スピロが困ったように眉根を寄せたが、エヴァは憤った様子で眉根を寄せていた。
「いいえ。リンタロウさん、『すこし』ではなく不謹慎そのものですわよ」
「いや、これは軽率の誹りを免れないな。仮にも医者の身でありながら……」
「医者?。あぁ、そう言ってたな。だが、未来のあんたは作家として有名だがな」
マリアがひとりごちたが、リンタロウはそれを聞き逃さなかった。
「作家?。小生がかね。まぁ、以前にヴィルヘルム・ハウフと云ふドイツの作家の『DieKarawane(隊商)』という童話を『盗侠行』という漢詩に翻訳して発表したり、十二巻の『医政全書稿本』という医学書を書いてはいるが……」
「ほう、ヴィルヘルム・ハウフを翻訳したのか!。ドイツ人なら知らないやつはいないぞ。『冷たい心臓』やなんか、いくつもの作品が映画化されてるし、児童文学のための『ヴィルヘルム・ハウフ賞』があるくらいだからな。ちょっと見直したぞ、リンタロウ」
マリアは先ほどまでとはうって変わって顔を輝かせた。
セイはすこしホッとして、おずおずとリンタロウにことばをかけた。
「そうなんですよ。未来の日本ではあなたは作家として知られてるんです。学校でもあなたのことは教科書に載ってますし、試験にもでますから……」
「聖君、小生は教科書に載るほど作家になるというのかね?」
「えぇ。あなたは明治の『文豪』と称されています」
「そうなのか……。『文豪』と……」
リンタロウは顔をすこし赤らめて、こめかみに指を当てながら笑った。
「なんだかそう聞くと、世界を揺るがす大事件がもうすぐ起きるというのに、この龍動を離れなければならないのが惜しくてならんね」
「残念だったな。でもあんたはさっさと帰らなくちゃいけねぇよ」
マリアが口さがなくリンタロウに言った。
「マリア。誤解は解けただろう。そんな口をきかなくても……」
セイはあわてて注意したが、マリアはそれを否定した。
「セイ、そういう意味じゃねぇよ。リンタロウが予定通り帰ってねぇと、こいつを追いかけて四日後に来日してくる、ドイツ人女性のエリーゼが困るから言ってるだけだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ。エ、エリーゼが、に、日本まで追いかけてくるってぇぇぇ!!!?」




