第63話 このお嬢様たちを外へお連れして
マリアとエヴァに勝手気ままに、辛辣なことばを投げつけられたアバーラインは、あきらかに当惑していた。
「あのぉ、お嬢様方。失礼だが、わたしをどなたか別の方とおまちがえではないでしょうか?」
アバーラインは感情を抑えたやわらかい物腰で対応した。
「アバーライン警部補、まことに申し訳ございません」
スピ口は取りつくろうようにわって入った。
「あなたのご高名をお伺いしておりましたので、つい逸ってしまいました」
「高名?。わたしは一介の警官ですよ」
「いえ、これから有名になるのです」
「有名ね……。お嬢さん、たいへん申しわけない。警察をからかうのは勘弁ねがえるかな。これでも忙しい身でね」
「このあと、そんな悠長なことを言っていられないほど忙しくなりますわよ。世界をゆるがす連続殺人事件の主任刑事としてね」
「連続殺人……。ずいぶんぶっそうなことを言うお嬢さんだ」
アバーラインは手に負いきれないとばかりに、困った顔を浮かべて奥のほうへ声をかけた。
「すまん。ゴードリー、このお嬢様たちを外へお連れして」
アバーラインにそう命じられた男、ジョージ・ゴードリーはでっぷりと肥えた男で、どことなく不潔感がただよう身なりをしていた。どこがそうかと言われても指摘するのが難しかったが、すくなくともゾーイの第一印象は好感触とはほど遠かった。
ゴードリーはアバーラインの元にやってくると、こちらにうさん臭げな目をむけてきて言った。
「おい、売女ども。ここは警察署だぞ。昼間っからこんなとこで商売されても困るんだよ。さっさと出て行きな」
あまりにも横柄な態度に、ゾーイは驚いた。おそらくここでは茶飯事の、紋切り方の対応なのだろうが、それにしても言い方というものがある。ティーンにむかって警官が投げかけることばとは、とうてい思えない。ゾーイはカッとした。
ここは男役をしている自分がきっちり言うべきだ——。
拳をぐっとにぎりしめ、半歩前に足を踏みだした。が、足がとまった。
目の前のゴードリーはおおきく見開いた目を白黒させていた。彼のたるんだ顔いっぱいに汗がふきだしている。
なに?——。
よく見ると、ゴードリーのだぶついた顎の下に、いつのまにか刃があてがわれていた。
日本刀だった。
今の一瞬で、セイが日本刀を呼びだし、ゴードリーの首筋に突きつけていたのだ。
いつ……、どうやって、抜いたの?。




