第61話 まずはロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)へ
「お姉さま。じゃあ、そのなかにネルさんが含まれているんだね」
「えぇ、ゾーイ。フランシス・コールズ、つまり赤毛のネルさんは、おそらくその一連の事件の最後の被害者でした」
それを聞いてエヴァがスピロにむかってたたみかけてきた。
「つまり、ネルさんを殺したのが、切り裂きジャックだとしたら、その凶刃にかかる前に彼を捕まえれば……」
「はい、エヴァ様。おそらくネル様は殺されずにすむのです」
「なるほどな」
マリアが納得したといわんばかりに、手をうった。
「わかったぜ。じゃあ、四の五の言わずに今すぐジャックを取っつかまえにいこうぜ。スピロ、おまえのことだ、容疑者の二、三人は目星つけてンだろ}
「ええ。ですが、その前に警察の協力をとりつけなければなりません」
「なぜですか?」
「エヴァ様、わたしたちが犯行現場を理由もなくうろついてみなさい。すぐにつかまってしまいますわよ。面倒ですが、まず説明をしておかねばなりません」
「おい、オレたちがそんなに怪しくみえるわけないだろ」
「そんなのはお金でなんとかしたほうが早いですわ」
「交渉なら、あたいに任せておくれよ、お姉さま」
マリアとエヴァ、ゾーイまでもが口々に自分勝手な主張をしてきた。そのなかにあって、セイだけはなにも言わずこちらに目を向けているだけだった。
だがその目はスピロを信頼している目だった。
自分が下した判断を全面的に指示するという、全幅の肯定がそこに感じられて、スピロは嬉しさと恥ずかしさに思わず顔を伏せた。
初代スコットランドヤード
「まずはロンドン警視庁へ行きましょう」
スピロは自分のなかに湧いてきた感情を振り払うようにして言った。
「そこで、この事件を担当することにな主任警部補のフレッド(フレデリック)・アバーラインに会って事情を説明しましょう」
「まて、スピロ。アバーラインって、『黒執事』にでてくるフレッド・アバーラインか?」
マリアが驚くほどの速さで反応したが、スピロにはなんのことかわからなかった。
「『黒執事』……ですか?」
「あぁ、日本のアニメの『黒執事』だ。執事セバスチャンが活躍するあのアニメだ」
「マリア様、大変申し訳ありません。わたくしはその話を存じておりませんので……」
「でも、スピロさん。ジョニー・デップさまが映画で演じた、あの刑事ですよね」
「あぁ、えぇ……。いえ、そちらもわたくしは観ておりません」
マリアとエヴァの表情が変わった。ふたりともこれ以上ないほど生き生きとした表情をしてた。
「おい、スピロ。急ぐぞ」
「そうです。スピロさん、なにをぐずぐずされているのです?」
スピロはあいかわらずのふたりの身勝手さにため息をつくと、セイとゾーイにむかって肩をすくめてみせた。




