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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第59話 悪魔の囁きはずっと聞こえていました

「……というわけで、切り裂きジャックをとらえる必要がでてきたのです」


 スピロ・クロニスはあたりの風景を見回しながらそう言った。

 前日ダイブしたときと寸分変わらぬ19世紀末のロンドンの風景。

 目が痛くなるような黒く煙った空に、反吐がでそうな饐えた空気。

 街のざわめきはざらつき、街並みからは色という色が抜け落ち、なにもかもが生気をうしなっているようだ。ただ馬の糞尿で塗り固められた石畳だけが、(けが)らわしいまでに黒光りしている。


「おい、スピ口!」

 マリアが難癖をつけるような表情で、下から睨みつけてきた。

「なにが、……というわけです、だ。話が見えてこねぇぞ」

「あら、マリア様。今、かいつまんで説明したと思いますが……」

「スピロ、ちょっと待て。おまえ、はしょりすぎだ。ほかのヤツもみんな首ひねってるぞ」

 そう言ってマリアは、周りを取り巻いているみんなに目配せをした。それにすぐに賛同したのはセイだった

「ん、まぁそうだね。スピロ。マリアの言うとおり、ぼくもまったく理解できてない」

 セイが頭を掻きながら、率直にマリアに賛同すると、エヴァとゾーイも首を小刻みに上下させて同意をしめしてきた。

「ではもう一度、最初から順をおって説明します」

 スピロは軽く深呼吸をしてから、話を続けた。

「前回、わたくしたちミッションが失敗に終わったのは、悪魔の邪魔によるものではないかと推察しました。いわゆる『悪魔の囁き』によるものです。ネルさんの未練の思いを断ち切るようななにかを耳にしたり、本来の未練を別のものにすり替えるような巧言(こうげん)に惑わされたのではないかと……」

「たしかに……。もしネルさんの未練の思いが断ち切られたり、書き換えられたとしたら、ぼくらの力が急速にうしなわれていったのも合点がいく」

 セイはすぐにその見解に理解をしめした。おそらく過去の戦いのなかで、同じような目にあったことがあるのかもしれない。

「たしかにそうだねぇ。ネルさん本人自身が気づかない場合だってあるからねぇ」

 ゾーイもすぐにセイに追随したが、エヴァは異論があるらしかった。

「スピロさん、その意見、簡単には飲めませんわ。だってわたしたちはずっとネルさんと一緒にいました。そのあいだずっとネルさんを見張っていましたが、なにかを吹きこむ隙などなかったはずです」

「そうだ、スピロ。それはおまえが一番知っているはずだ。エヴァのバイクにあの赤毛のおんなと一緒に乗ってたンだからな」

「はい。マリア様、たしかにわたくしはネル様とずっと一緒でした。ですが、悪魔はそのあいだもずっと、ネル様に呪詛(じゅそ)のことばを吹き込んでいましたわ。そしてわたくしたちもたえずそれを耳にしていました……」

 スピロは自分の間抜けっぷりをあらためて思い出し、うんざりとした口調で言った。



「それを悪魔の囁きだなどと思いもせずにね」

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