第58話 姉の仮説ではひとつしか方法がないそうです
「マリア、そういう言い方しないの!。スピロさんに事情があるの知ってるでしょ」
かがりがすぐさまマリアをたしなめた。
「なんだよぉ、かがり。てめぇ、いちいちうるせぇな。まったく学級委員長みたいに……」
と言ったところで、マリアはふと思い出して付け足した。
「ま、実際に学級委員長なんだがな」
モニタの向こう側がちょっとしたもめ事になっていると感じたのか、あわててゾーイが言ってきた。
「マリアさん、申し訳ありません。姉は今、別の場所にいて手が離せないんです」
「ゾーイ、スピロは体調を崩したりしてないよね」
聖が心配そうな顔をしていた。
「聖さん、ありがとう。でもご心配なく。姉は元気ですわ」
「そうか、よかった」
「だったら、なぜここに顔を見せねぇんだ」
マリアは強く口調でゾーイに詰問した。それが咎めだてしているようにでも聞こえたのか、かがりが声をはりあげた。
「マリア!。スピロさんの都合も考えてあげなさいよ」
「都合?。いまさらそんなの気にかけてるのがおかしいだろうがぁ」
「失礼よ、マリア。スピロさんはからだが……」
「かがり、てめぇこそ失礼だぞ。スピロが健常者だとかそうじゃねえとか、分けへだてしてるんじゃねぇ。あいつはオレたちの仲間だ。なにを特別扱いする必要がある?」
マリアは下からかがりを睨みつけてそう言うと、かがりはじっとマリアの目をみてから頭をさげた。
「うん、そうだね。マリア、ごめん。わたしがまちがえてた」
ささくれだちはじめていた空気がすっと収まっていく。その間なにも言えずにいたエヴァはほっとしたような表情を、聖はとまどったような表情を浮かべている。
だがモニタのむこうのゾーイはひとり、嬉しそうに顔をほころばせていた。
「マリアさんにそう言ってもらって、わたしはうれしいです。姉もたぶん喜ぶと思います」
「は、別におまえたち姉妹を喜ばせようとしたわけじゃねぇ。で、スピロはどこに行ってるんだ」
「はい。姉はあのダイブから戻ってから、一睡もせずずっと知識を詰め込んでいるんです」
「知識を詰め込んでいる?。一睡もせず?」
そう言ってエヴァが目をまるくした。
「あのひと、これ以上なにを博識になる必要があるんでしょうか?」
ゾーイはおもわず苦笑した。
「そうですよね。でも姉に言わせると、あの時代の知識が圧倒的に不足しているそうです。なのでバチカンの『サイコ・ダイバーズ』の権限を使って、世界中の『データ・アーカイブ』にアクセスして情報を集めているんです」
「そんなにまでして、スピロはなにをするつもりなの?」
かがりはとまどいを隠せないようだった。
ゾーイは聖、マリア、エヴァの順に顔を見回してから、すこし弱ったような顔を、かがりにむけて言った。
「姉の仮説では、これしか方法がないそうなんです……」
「『切り裂きジャック』をつかまえるって」




