第56話 再挑戦、できないの?
聖と取り残されたかがりは、その場にしゃがみ込むと、『念導液』のなかに半身を沈めてから、背後から抱きかかえるようにして聖の上半身を持ちあげた。
その姿勢のまましばらく待ってみる。
が、聖が目覚めようとしないと感じられて、かがりは聖の顔に装着されたゴーグルとレギュレーターを慎重にはずした。しばらく顔を覗き込んでいると、聖がゆっくりと目をあけた。
「やぁ、かがり」
とても弱々しい笑顔——。
「セイちゃん、マリアとエヴァに聞いたわ。要引揚者を救えなかったって。それと、コテンパンにやられたってことも」
「うん。まったく手がだせなかった」
「力をうしなわされたんでしょ。だったら、いくら聖ちゃんでも無理だと思うわ」
「それでも救わなきゃいけなかった……」
「そんな風に考えないで。依頼主さんはなにか言ってくるかもしれないけど、お父さんはきっとなんとかしてくれる、間違いなくね。だからだれも聖ちゃんを責めたりしないわ」
だが聖は返事をしてこなかった。かがりはたちまち心配になった。いつもなら、次は何とかしてみせるから、と虚勢をはってでも請け負ってくれるのに、今はその前向きのことばすら聞けない。
「再挑戦、できないの?」
かがりは躊躇いながら尋ねてみた。
聖は思い詰めたような表情をしたまま口を開こうとしなかった。
「聖ちゃん、ここから出よ」
かがりは聖のからだをうしろから揺さぶって言った。
「なにかお腹にいれてから、マリアやエヴァたちと次のことを……」
「ごめん、ひとりにしておいてくれないか」
そう言ってかがりの手をそっとはずそうとした。
かがりにとってこんなに落ち込んだセイの姿は想定外だった。
自分の手を払いのけようとしたセイの手をぐっとつかんで、かがりは抵抗した。
「いや!」
聖が驚いてうしろに首を曲げて、こちらを見てきた。とても力のない目。
そんな目の聖ちゃん、わたしは見たくない——。
「わたし知ってるよ。聖ちゃんがひとりで考え事をして悩んでいる時は、自分を責めることしか考えないって。自分のせいにできなかったら、もっと考え込んで、また次の悩みをどこからかひっぱりあげてくるの」
かがりはうしろからぎゅっと聖のからだを抱きしめて言った。
「だから、わたしは聖ちゃんをひとりにしない。してあげないの」
聖の耳元に唇をよせると、不退転の覚悟を宣言した。
「だから、聖ちゃん。悔しいこといっぱい言って!。泣きたいなら泣いていい。わたしじゃ、いっぱいになっちゃうかもしれない。でも全部吐き出して!」
「きっと受けとめてみせるから」




