第47話 この子たちは見逃せないかな?
その小さなミアズマはジョンだった。
「そうか。きみはピーターを助けたいんだね」
ジョンの目は助けを乞うあまりにとめどなく涙があふれ、憐憫を訴えて口元はわなわなと震えていた。
「ピーターぁぁ……」
幼子のそんな必死の姿に、セイはおもわず目をそらした。その態度がマリアの逆鱗にふれたようだった。怒号が飛ぶ。
「セイ、てめぇ、怯むな。おまえがやれねぇならオレがやる」
「そうですわ!。セイさん、マリアさんにナイフを渡してください!」
マリアの頭上からからだを乗り出すようにしてエヴァが叫んだ。
自分が格闘している合間に、長屋に逃げ込んでいたらしい。そのうしろにネルの姿も確認できる。
「エヴァ。無事に逃げこめたんだね」
「セイさん。無事ではありません。ミアズマを全部倒さないと、ここを抜けでられないんですよ」
隣の部屋の窓からスピロが忠告めいた声をあげてきた。
「セイ様、これは悪魔の罠ですよ。それに嵌まってはいけません」
セイはピーターの頬に突き立てたナイフを握ったまま、もういちどジョンに目をむけた。すると今度は反対側からおおきな泣き声が聞こえてきた。
「ピーターぁぁぁぁ」
マイケルだった——。
その目もジョンと同様にセイに訴えかけていた。
お兄ちゃんもほかのおとなたちみたいに、ぼくたちにヒドいことをするの——?。
そんな風に思えてセイは思わずぎゅっと拳を握りしめた。
「マリア……」
ふと気づくと、セイはマリアに向き直っていた。
「この子たちは見逃せないかな?。まだ倒すべきミアズマはいっぱいいるじゃないか」
「てめぇ、バカ言ってンじゃねぇぞ。そこの三体も、その、いっぱいの一部だ。一緒だよ」
「でも、この三体を見逃しても……」
マリアは自分の背後にいる、ネルを指さしながら怒鳴った。
「ふざけるな!、セイ。オレたちの任務はこのネルっていう女を殺させねぇことだ。この女を殺される歴史を繰り返させねぇためならなんだってやる。幼子だろうとなんだろうと容赦しない。そうだろうがぁぁ」
マリアの目は真剣そのものだった。
マリアはなにひとつまちがえちゃいない——。
「ごめん、マリア。キミの言うとおりだ……」
セイはピーターの顔に刺さったナイフを抜くと、もう一度上にふりあげた。
「まず、ピーターから排除する」
そのとき、マリアたちのいる部屋の奥のほうでなにかが動いたのが見えた。五人以外のなにか——。
「マリア、エヴァ、うしろになにかいる!!」
が、遅かった。
どこからかはいってきた小さなミアズマが、ネルに襲いかかるのがみえた。




