第42話 ゾーイさんがいい働きをしています
セイがミアズマのあいだを跳躍している間、常にどこかでミアズマの悲鳴があがっていた。
それはまるで遅効性の爆弾が爆発しているような様相。
「セイ様の太刀筋、まるで剣舞でも舞っているように見えますね」
スピロが感心しきりで嘆息した。
「そうですわね。でもわたしには、セイさんが刀ではなくタクトをふって、悲鳴の音のする楽器を指揮しているようにも感じてますのよ」
「たしかに正確無比でとてもリズミカルな戦いをされています」
「それと……」
エヴァはスピロが目をむけているのが、セイだけではないことに気づいて言った。
「ゾーイさんがいい働きをしています」
「ええ。えぇ……、そうですわね」
すこしためらうような口ぶりだったが、こころの底から嬉しそうだった。
エヴァはマリアのほうにも目をむけた。
マリアの剣はセイとは正反対だった。
まさに『武骨』そのもの——。
中空にはね上げられたミアズマの針金のような手足を、一撃で根こそぎに叩き落とすと、からだのど真ん中を狙って、やみくもに剣を振り抜いた。
ミアズマがからだがまっぷたつになると、からだの中央に位置するひとの顔は、胴体ごとふたつに切り裂かれていた。顔を切断する方向は、縦方向だろうと横方向だろうと、マリアは頓着しないようだった。
剣をふるったあとに、弱点の顔がぶった切られていればいい、というマリアらしい短絡な発想だった。
しかし、その剣はただ剛腕にまかせる、無粋きわまりないものであったものの、『斬る』というよりも『滅する』という意志を感じさせた。相手の身体だけでなく、化物に変えられた人々の、悲哀や怨念などの意識ですら、根こそぎ葬り去ってやるという気迫があった。
マリアに叩き斬られたミアズマの断末魔は、こころなしか大きく苦しげに聞こえた。
「まったく、マリア様の剣はあいかわらず容赦がありませんこと」
「仕方ないでしょう。あの人は戦いを楽しんでるんですから。ゲームみたいにね……。でもそのくせなんの攻略法もなしなんですよ」
「それが楽しいんでしょうね。でもセイ様もおなじようなものですわ。セイ様はただただ効率を重視しながら戦いを楽しんでいるだけですよ。言わばタイム・アタックをやってるようなものでしょうかね」
セイが長屋の壁を垂直に駆け上がっていくのが見えた。ゾーイがそちらにむけて、手をおおきくふりぬく。壁一面にびっしりとはりついていたミアズマの群れが、力づくでひきはがされて壁面から離れる。そこへセイが斬り込んでいく。バラバラとおちていくミアズマを空中で数体仕留めるや、地面に落下した連中を上空から狙いすます。
「心配することは、なにひとつなさそうですね」
エヴァは背後のスピロにむかって言った。




