第41話 まるで一匹の真っ黒な生物にしか見えませんね
「なんて数なんでしょう!」
スピロとネルを乗せてピストル・バイクで街の上空に上昇すると、その光景にエヴァは大声をあげずにいられなかった。
二階建ての貸間長屋に周りを囲まれた狭い街路で見た時には、あたりを取り囲むミアズマの数に驚いたが、上から街全体を俯瞰してみると、そんなものではないことがわかった。
入り組んだ街の隅から隅までミアズマで埋め尽くされていた。路面や屋根はもちろん壁面に垂直に取りついていた。あの薄汚かったレンガ壁や石畳は覆いつくされて見えない。
「まるで一匹の真っ黒な生物にしか見えませんね」
「たしかに。でもわたくしにはあの蠕動している様が、そういう生物の内臓のようにも見えます」
後部座席からスピロが、より想像したくない喩えを返してきた。エヴァが後部座席を確認する。エヴァのすぐうしろにはネルが座っていた。貼り付くようにして、エヴァの背中に貼り付いている。そしてそのうしろでネルを挟み込むようにして、スピロが座っていた。二人乗りに三人で乗っているので、スピロは後部から半分お尻が浮いているにちがいなかった。
「スピロさん、ネルさん、しっかり掴まっていてください。一発撃ち込みます!」
そういうなり下方にむかってトリガーをひいた。
正面の射出口からミサイルが飛び出し、セイたちが対峙している最前列部分のミアズマの群れを一気に吹き飛ばした。スラム街の路地をおおきな爆発音が駆け巡り、もくもくと黒煙がたちのぼる。
一瞬遅れて、あの耳障りな悲鳴がかしこであがった。
それが戦闘開始の合図になったように、ミアズマたちが一斉にセイたちに襲いかかってきた。
ゾーイが両腕を伸ばして、力強くなにかをすくいあげる仕草をするのが見えた。
と、正面から押し寄せてきたミアズマたちが、まるで下から風に煽られたように、うしろ側にはね飛ばされた。10匹や20匹どころではないミアズマが背後の壁に激突していく。
そこへセイとマリアが斬り込んでいった。
セイは中空に舞い挙げられてバランスをうしなっているところを狙っていた。
空中に舞いあげられたミアズマは、針金のような細い手足をじたばたさせた。それが一度に何十体も舞いあがると、その脚が入り組んだ格子のようになり、まるで空中に浮かんだ牢屋のようにみえる。
セイはその隙間をかい潜り、ミアズマの顔に刃をつきたてた。そしてすぐさまそのミアズマを足場に跳躍し、次のミアズマに飛び移った。すこし遅れてミアズマが断末魔の声をあげるが、そのときにはあらたに飛び乗ったミアズマを貫いていた。




