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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第36話 ウエストエンドの感想

 あまりにマリアとエヴァが文句を言うので、ネルと連れだってその日は『ウエスト・エンド』に乗り込むことにした。子供連れというわけにもいかず、ピーターたちとはまた夜落ち合うことを約束して別れた。

 スピロの見立ててで、服装や身なりをしっかりと整え、それなりに清潔な宿をとると、そこで一休みしてから、全員で市内観光にむかった。

 セントポール大聖堂、ロイヤル・オペラハウス、大英博物館、ウェストミンスター宮殿、その横に屹立する時計塔ビッグ・ベン、バッキンガム宮殿などを見て回った。

 その感想はというと……。


「きたねぇ、臭え!」とマリア。

「百数十年ばかりあたらしいだけで、現在とほとんど変わりばえしませんねぇ」とエヴァ。

「はじめて見たから、あたいは満足だけどねぇ」とゾーイ。

 そしてスピロは一番手厳しい感想だった。

「まぁ、オリンピアで今はうしなわれてしまった、紀元前の建造物を見たあとですからね。いまも現存するもののを見たところで、特別になんの感慨もわきませんね」 

 だが驚いたことにネルが一番喜んでいた。

「生れてはじめて、こんなに贅沢にロンドンを楽しみました。お金があるっていうのは、こんなにも人生がちがって見えるものなんですねぇ」


 日も沈みかけた頃、セイたちはまた汚い服をまとって、イースト・エンドに戻ることにした。この半日、なにも予兆らしき様子もなかったので、マリアとエヴァはさいごまでイースト・エンドに戻るのに抵抗し続けた。


 だが、ホワイトチャペルの街に踏み込んだとたん、すぐにセイはなにか異変が起きていることに気づいた。

 街があまりにも静かだった——。

 もちろんイースト・エンドには、ウエスト・エンドほどの喧騒はない。辻をひとつ曲がるたびに、市中にあふれる活気や発展の音が削りとられていく。改革や成長の臭いがはぎ取られていく。ホワイトチャペルはそんな街だ。それはわかっている。

 だが、ひとびとが懸命に生きようとする生活の音はいたるところから聞こえてきたはずだ。どこかの家から聞こえる怒号やわめき声。子供や赤ん坊の笑い声や泣き声。なにかを打ち鳴らすわずらわしい音——。

 なにもかもが今消えうせていた。

 それだけではない。

 街にひとがいなかった。きのうの今頃は寝こんだり座り込んだりして、通路を占拠していた人々がまったくいなかった。行き場もなく飲んだくれている労働者も、夜のために寝だめをしておこうとするストリート・チルドレンも、商売の準備に忙しくする娼婦たちも、だれもかれもがいなくなっていた。


「みんな、注意して。様子がおかしい」

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