第34話 給水場で水がでるのを待たされる
「でも、今回、その『超跳躍』が起きずにいるのはなぜなんだい」
セイはスピロに質問を投げかけたが、おずおずと自分の推理を口にしたのはエヴァだった。
「もしかして、すぐに……、すくなくとも24時間以内に、事件、もしくはそれに類するイベントが起きるっていうことでしょうか?」
スピロはとても弱り切った顔で答えた。
「エヴァ様、それでは腑におちません。昨日、切り裂きジャックの5番目の犠牲者がでたと聞きました。本来の歴史では、これが最後の犠牲者なのです。そのあとすぐに誰かが殺されたという記録はないはずです。ましてやネル様が喉を掻切られて殺されるなんて……」
「だれか別のひとに殺されたんじゃないのですか?。本人はわからないままだったけど、すぐに犯人が捕まって、切り裂きジャックと結びつけられなかったような事件があったのかも……」
「もしそうだったとしても、喉を掻き切られるという状況であれば、その犯人こそが『切り裂きジャック』と関連されづけされたはずです。このタイミングならたとえ被害者が男であったとしても、無理やりにでも結びつけられたでしょうから」
そこへゾーイがピーターが子供たちとともに建物の角から姿を現した。ゾーイはバケツのようなものを片手に抱えている。
ピーターがスピロのほうへ駆け寄ってきて言った。
「スピロさん、急にいなくなっちゃったからどこにいったか心配したよ」
「水を汲みにいったのにいつまで経っても、蛇口から水がでてきそうもないので、あきらめて戻ってきましたわ」
「仕方ないさ。ここイーストエンドじゃ、給水は毎日10分ちょっとってきまっているからね」
「時間ではないのですよ。いつになったら出るかがわからないのか問題なのです」
「そんなのわかるわけないじゃないか。出た時間が出る時間さ。だからそれまでみんな辛抱強く待つのさ」
そこへゾーイがやってきて、水のはいったバケツを地面に置きながら言った。
「まぁ出たら出たでおとなたちが殺到して、子供たちを押しのけるから、結局水には簡単にありつけないようだけどねぇ」
「では、その水はどうされたのですか、ゾーイ」
「そりゃ、お姉さま。あたいが追い払ったさ。そういう横入りするような輩は許せないからねぇ」
「追い払った?」
スピロがいぶかるようなような目をむけたが、下のほうでジョンとマイケルがはしゃぎたてた。
「ゾーイさんがみんなをぶっ飛ばしたよ」
「そうさ。ゾーイさんがギャングたちをこてんぱんにしたんだ」
「気持ちよかったよ」
「みんな拍手喝采さ」
掛け合いをはじめたジョンとマイケルのことばに、あわててスピロはゾーイに言った。
「ほんとうですか?。ゾーイ」




