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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第32話 なんでオレたちは路上生活者をやってる?

「なんで、オレたちは路上生活者をやるはめになったんだ」


 マリアが吠えた。だがそのことばにはいつものような覇気(はき)はなく、みょうに気抜けして感じられた。

「マリアさんに完全同意ですわ。まったくもって……屈辱至極(くつじょくしごく)!。ガードナー財団の次期CEOの受けるべき待遇ではありませんわ」

 エヴァもいきどおりを隠そうとはしない。だが、こちらもいつもと鼻っ柱の強さは鳴りをひそめた物憂げな様子で、ただだれかに愚痴をこぼしているだけに聞こえる。

 セイがふたりの方へ目をむけると、両人ともやけに疲れ切った顔をこちらにむけていた。目は恨みがましげにギラついていたが、(まぶた)は重力にたえきれず、下へ落ちかかっているうえ、口はだらしなく空いたままで、こちらも唾液がこぼれおちそうだ。

 どことなく目の下が黒くくすんでいて、(くま)のよう見えなくもない。


「ど、どうしたのさ?。マリアもエヴァも」

「ああん。どうしたもねぇだろ。オレは一睡もできなかった」

「わたしも眠れませんでした」

「でも歩哨は交代でやったから、4時間程度は眠れたはずだけど……?」

「クソの上だぞ」

 マリアが重々しい瞼の下から、セイを睨みつけた。

「しかもクソみたいにゆがんだ石畳の上のな。眠れるわけがねぇ」

「それにめまいのするような臭いっ」

 今度はエヴァが胸焼けを抑えながら、不満をぶちまけてきた。

「いっそ気絶してくれれば、どんなに楽だったかと願うほどでしたわ」

「嗅覚を調整すれば、臭いはかなり緩和できたと思うけど……」

「バカか、セイ。あの能力は一時的なものだろうがぁ。あんなのとっくに有功期限切れだ」

「それにこの霧……、じゃなくて煤煙(ばいえん)でしたわね。朝になったとたんまた……」

「やっぱ、どこかで安宿を探すんだったよ。こんなクソみたいな、じゃなくてクソそのものの上で寝るんじゃなくてな」

 セイは昨晩、さんざん模索したり協議したことを思い出しながら言った。

「マリア。昨日この近くで探したけどどの宿もいっぱいだったじゃないか。ちいさな部屋に嫌っていうほど詰めて込まれてて。あんなところにもし泊まっていたら、なんやかんや起きていたと思うよ」

「なんやかんやってなんだよ?」

「ピーターが言ってただろう。人間が思いつくすべてのことが起きるって……」

 たちまちマリアの顔がカーッと赤くなった。

「そ、そんなヤツ、オレが殴り倒してやる」

 セイは嘆息した。

「マリア、きみがその行為を迫られなくてもサ。その行為を間近で見せつけられるんだよ……」

 マリアはさらに顔を赤らめたが、エヴァはそんなことはどうでも良いとばかりに、セイの前にでてきて諭すように言った。

「セイさん、だからこんな貧困の街『イースト・エンド』ではなく、上流階級の暮らす『ウエスト・エンド」で宿を探せばよかったのです……」


「お金はいくらでも、つくれるのですからね」

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