第31話 犯人がだれかだなんてどうだっていい
「もしかしたら、このネル様を殺したのは、切り裂きジャックとはちがう別の殺人犯、もしくはジャックの模倣犯かもしれません……」
スピロがネルが目をひらく様子を注視したまま、エヴァのほうに意見だけを向けた。
「犯人がだれかだなんて、どうだっていいじゃないかな?」
セイは全員にむかって提案した。仮説や推測だけが先行して、みんなの目的がばらばらになりそうに感じたので、その場をひとまず落ち着かせたかった。
「要するにそれが誰だろうと、ネルさんを殺させなければいいだけだ」
「まぁ、そうだな」
マリアがすぐにそれに追随した。
「セイさんの言うとおりさ。あたいらで見張ってりやぁ、殺人鬼の凶行のひとつくらい、簡単に防げることじゃないのかい」
ゾーイがため息まじりにそう言うと、エヴァも軽くうなずきながら賛同した。
「そうですわね。殺人犯相手のボディ・ガードですからね。5人そろって潜ることもない案件だったかもしれませんわ」
だがスピ口だけは簡単に首を縦にふろうとしなかった。
「どうしたんだい、スピロ、。まだなにか気になることが?」
「いえ……。すでに時間軸がおかしいような気がして……」
「時間軸?」
「えぇ、オリンピュアのときのような『罠』が、すでに仕掛けられているような気がします……」
「オリンピュアのときのような罠って、潜った年代を勘違いさせるように仕向けられた、あのときのような罠かい?」
「スピロ。なんでそんなものが仕掛けられるってンだぁ?」
マリアはスピロのばくぜんとした物言いが気にくわないようだった。
「マリア様。ご存知でしょ。セイ様が一緒なのですよ。すでに悪魔に察知されていることを覚悟していたほうが良いかと……」
マリアはそれを聞いて、わざとらしく額をぴしゃっと自分で叩いてみせた。
「あぁ——、そうだったな。ここに『何億ベリー』もの賞金首がいるんだモンな」
「なんですか?。その『ベリー』というのは?」
「いや、いい。スピロ、気にすんな」
マリアはそう言って手をふってごまかした。
そのとき、それまでセイたちの様子をひと言も発せずに見ていた、ピーターが口をひらいた。声がこころなしか震えている。
「セイ、いったい全体、今、なにがあったんだい?」
その顔にはどうやっても隠しきれない、驚きと興奮があふれていてすこし紅潮して見えた。
「ぼくには何も見えなかったけど、たしかにキミたちは誰かと話をしていた……」
「いったい全体キミらは何者なんだい?」




