第28話 で、アタシとしたいのは誰なのかしら?
「で、アタシとしたいのは、だれなのかしら?」
赤毛のネルは、床下のトンネルからでてくるなりそう言った。彼女は目の前にいるセイたちをひととおり見渡すと、やおらセイの腕をつかんで引っぱった。
「なぁにぃ。男はあんたひとりしかいないじゃないのぉ?」
妙に鼻にかかった甘ったるい声をセイにむけてきたかと思うと、ネルはふいに腕をひっぱってきた。その力が意外にも強引だったので、セイはあわてふためいた。
「ちょ、ちょっと、赤毛のネルさん。ぼ、ぼくらはそういうつもりで来たんじゃ……」
「ピーターからアタシに用があるって聞きましたわ。用って言えばひとつしかないじゃないのぉ」
ネルはセイのからだを艶めかしい手つきでなでまわしながら囁いてきた。
「あ、いや……、そうじゃなくて……」
「わかってるわよ。あなたはじめてなんでしょう?。まぁ、間際になっておじけづくのはしかたないわ。まぁ、アタシにまかせてちょうだい。わるいようにはし・な・い・わ」
そう言い寄りながら、ネルは豊満な胸をセイに押しつけてくる。視線がおもわず下をむく。セイはドキリとした。いまのいま、「こと」を済ませたばかりのせいか、ネルの襟元はゆるんでいて、胸元の谷間がことさらに強調されて見えた。
セイは救いを求めるように、マリアやエヴァたちのほうに視線を泳がせた。
が、全員が全員とも、顔をうつむいたままなにも言おうとしなかった。ネルの勢いに飲まれたのか、ことがことだけに口を差し挟めないのかわからなかったが、誰もとめだてしようとしてくれなかった。
「ネル、早合点しないでよ。そういうことで来てるんじゃないよ」
ピーターがネルに声をかけた。でもよく見ると口元がにやついていて、あきらかに目の前の悶着をおもしろがっている顔をしている。
「ピーター、どういうことなのぉ。てっきり客をひっぱってきてくれたんだと思ったんだけどぉ……」
ネルは口をとがらせてピーターに不満をぶつけたが、なにかを察したらしく、セイを脇に押しやると、今度はエヴァに近づいて、彼女の顎を上向きに持ちあげた。ネルは品定めをするように、エヴァの顔を右、左と横に傾けると、エヴァの顎をつかんだまま、スピロ、ゾーイ、マリアのほうをみまわした。
「ピーター、アンタ、まさかこの子たちの面倒をみてくれってことなのぉ?」
そのひとことでエヴァは、自分たちがネルにどう見られているかに気づいたらしい。彼女はあわててネルの手をふりほどいた。スピロはとくに顔色を変えることもなく、目の前の状況をただ見ていたが、マリアとゾーイはエヴァにつられるようにあとずさった。
「ピーター、勘弁してちょうだぁい。こんな若い子にからだを張られてしまっては、こっちの商売が干上がってしまいますわ。それでもなくてもこの地区は、あいつがうろついているから、客引きだって簡単じゃないのよぉ」
「だぁからぁ、ネル。早合点しすぎだよ。そうじゃない……」
「ちがうのぉ?。えーー、まさかこの娘たちの相手をしろっていうことぉ?。ピーターぁ、それは無理よぉ。だって同性愛は法律違反なんだものぉ……」




