第10話 そのために送り込んだ
「今からダイブするだと!」
マリアは立ち話の流れから、その日のうちに精神世界へのダイブを試みることになったのが気に入らなかった。
「不安なのかい?」
「ちがう。こちらは公的な組織だ。じゃあ、晩ご飯でも一緒に、っていうノリで潜れるわけないだろうがぁ」
「では、わたしと聖さんだけでダイブします」
エヴァが妙に前向きな姿勢でマリアを牽制した。
「わたしは今、財団のほうに許可をいただきましたから。LINEで報告済みです」
「おいおい、おめぇンとこは手続きいらずかよ。簡単でいいな」
「マリアくん。きみのほうの許可ももらったよ」
ふいに奥のほうから声がして、所長の夢見輝雄が姿を現した。
「おい、それはどういうことだ?」
輝雄はそれには答えず、ゆっくりとマリアたちの前にくると手にもった書類をさしだした。
「失礼だとは思ったが、きみたちふたりの身元を照会させてもらった」
「まぁ」とエヴァはひとこと声をあげただけだったが、マリアは輝雄を睨みつけた。
「博士。あんたはオレたちが偽物だとでも……」
「われわれが身元を確認せずに、君たちの話を鵜呑みにする団体とでも?。むしろそっちのほうが、きみは信頼できないだろう、マリア君。きみたちがもし悪魔の手先だったら、我々は人類規模の『オレオレ詐欺』に引っかかっちゃうことになるからね」
輝雄が自分でうまいこと言ったな、というドヤ顔になったので、マリアはそれ以上、その話に言及しないことに決めた。
「で、バチカンはなんて言ってた?」
「そのために送り込んだ、と」
マリアは耳を疑った。さきほどの喩え話に無反応だったことへの意趣返しかといぶかったが、その前に憤った気分が前にせり出してきて、いつの間にか叫んでいた。
「送り込んだ?。どういうことだ?」
「きみたちが聖と出会ったのは偶然ではなかったということだね。腹立たしいが……」
「なんで博士が腹をたてる。腹をたてるのはこっちのほうだ」
「ということは、わたしたちの財団も知っていた、とみたほうが良いですわね。承認がいやにあっさりとしてましたから」
そう言って、エヴァがみんなのほうにスマートフォンの画面を見せた。エヴァが送った『昏睡病センターの許可をいただき、ローマ法王庁のマリア・トラップさんと、精神世界へのダイブを試みたいのですが、許可をいただけますか』といやに丁寧な願いに対して、財団トップから戻ってきた返事は『親指をたてたキャラ』の『絵文字』だけだった。
「おい、エヴァ。おれたちは完全に上にハメられたぞ」
「そうですか?。マリアさん。おかげでここにいる皆さんと知りあえたんですから、結果オーライかと……」
「は、エヴァ。相変わらず無頓着だな」
「前向きなだけですわ、マリアさん」
「では、ふたりとも着替えてもらおうかな」
輝雄がそう促すと、マリアがもっていきどころがなくなった憤りを輝雄にぶつけた。
「着替えだとぉ?。おい、なんに着替えるんだ!!」