第22話 イーストエンドの子供たちの半分は5歳までに死ぬ
ピーターは子供たちのほうを振り向いて言った。
「みんな、聞いたろ。10シリングだ。真夜中になっチまう前に、ネルを探してだしてきてくれ。そして明日の朝は『ウナギのゼリー寄せ』をたらふく喰おう」
子供たちの白茶けた顔に、すこし赤みがさしてみえた。
ピーターはパチンと手を叩いた。こどもたちはひとりを残して四方八方に走り出し、あっという間に街角に消えていった。ひとり残ったのはまだ2〜3歳ほどでのあどけない女の子だった。ただ、今はピーターのうしろにぴったりはりついて。不安げな顔をこちらにむけている。
「この子はウェンディ。まだ3歳の女の子だよ。ちょっとのあいだ家から追い出されてるんで、ぼくがすこし面倒みてるんだ」
「追い出されてる?。なぜだい?」
「セイ、仕方ないのさ。今、この子の母親はお客をとってるからね」
「お、お客……、え?。あぁ……、いや……」
「でも、あとの子たちがきっと探してくれるから心配しないで」
ピーターは自信を覗かせたが、マリアが遠慮がちに尋ねた。
「あれでもけっこう子供じゃねぇか。この街じゃあそれくらいしねぇと、喰っていけねぇってことか?。ピーター」
「うん、そうだね。でも……、半分は5歳まで生き残れない」
「おい、そりゃどういう意味だ?」
「このイースト・エンドではうまれた子供の半分以上が5歳までに死ぬんだって偉い学者さんが言ってるんだって。だけど5歳以上になれたとしても、今度は仕事場で命を落とすのさ」
「し、仕事……?。5歳でか」
「うん。男の子は煙突掃除の場へ駆り出される。ほんとうは法律で禁止されてるはずなんだけどね、今でも知らんぷりして続けている親方連中はいっぱいいる。子供を使うほうが機械より安いからね。とくに栄養失調で痩せた、ほそいからだつきの子供は、いくらでも見つけられるし」
「ずいぶん過酷な仕事だと、本で読んだことがあります」
スピロがつらそうな表情でピーターに言った。
「そうだね。あの仕事は煙突の中に入り込んで、全身真っ黒になりながら半日以上働かされる。すこしでも動きやすくするため、裸でなかにはいるから、からだじゅう傷や痣や火傷だらけさ。なかには膝頭が裂けて、軟骨が飛び出したまま作業させられたって話もあるよ。子供らは煙突のなかに長時間閉じこめられるから、発育がとまったり、からだが歪に曲がったりして、まともに歩けなくなるんだ」
ピーターはみんなを見回して、しかたがない、とばかりに肩をすくめた。
「で、終いには煙突ンなかで動けなくなって窒息したり、転落したりして命を落とす……。まぁ、そんなのは茶飯事さ」