第20話 ピーター。きみに頼みがあるんだ
「ま、まぁ、そうなんだけど……。せっかく出会ったんだから、ピーターたちに協力をお願いしようと思ってね。だってこの迷路みたいな街を、難なくすり抜けていくんだよ。この街のことは彼らに聞くのが一番早いだろ」
「だからと言っても、お金は返していただかなければ困りますよ」
スピロがセイに釘をさした。
「うん」
そう言うとセイがピーターに向き直った。
「ピーター、申し訳ない。きみが盗んだお金を返してもらいたいんだ」
「そうはいくかい。これはもうボクの、いや……、ボクらのお金だかンね」
ピーターがわざわざ言い直したのを聞いて、ゾーイはこの少年のしたたかさに感じ入った。たったひとことで、憐れなこどもたちを仲間に引き入れたのだ。
「でも、そのお金は使えないよ。エヴァに言われただろ」
ピーターはポケットをまさぐって、コインを取り出すと、ほの暗い街灯に透かすようにして見た。
「あ、本当だ。全然ちがう。こんなデキの悪い偽硬貨はじめてみた」
「まぁ。それはできのわるい偽硬貨じゃありませんわよ。これから何十年後にはまったく問題なく使える公式の硬貨ですわ」
エヴァがじぶんが現出させた硬貨を偽物呼ばわりされて口をとがらせた。
「ふん。お姉ちゃんがなに言ってンのかわけンねぇけど、こんなの使ったらその場からトンズラする前に捕まっちまうな」
「ピーター。きみに頼みがあるんだ」
セイがあらからさまに意気消沈しているピーターに提案した。
「ぼくたちはこの街でひとを探しているんだ。だけど路地が複雑すぎて、どこをどういけばいいのかわからず困っている。手助けしてくれないかな?」
「ふん、なんで、あンたらを助けなくチャ、いけないンだ」
「5シリング!」
セイはピーターの目の前に、手のひらをめいっぱい広げて言った。
「本物の、ちゃんと使える硬貨で」
ピーターは眼前につきだされた5本指をじっと見ている隙に、セイはエヴァにウインクをしてみせた。その意図することに気づいたエヴァが、力なく脱力するように首肯したが、一瞬ののち手のひらにあたらしい硬貨を現出して、セイのほうへさしだした。
「今度はヴィクトリア女王の硬貨ですわ」
セイに耳打ちするように言った。
ピーターがセイの手のひらのうえに乗せられた硬貨をちらりとみた。ゾーイはそれだけでセイの作戦が奏功したことがわかった。
「だれを探せばいいのさ」
ぶっきらぼうな口調で、ピーターが尋ねた。
「ゾーイ!」
ふいにセイから名前を呼ばれて、ゾーイは一瞬で胸が高鳴った。
「ピーターにぼくらが探しているひとを教えてあげてくれないか?」
ゾーイは片手でぐっと胸元を押さえた。そうでもしないと心臓の音があたりに聞こえてしまいそうで怖かった。
「あぁ、わかったよ」
ゾーイはそっけない返事をしてから、ピーターの前に歩み出た。