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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
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第19話 ぼくの名前はピーター

 ゾーイのテレパシーに導かれてセイたちが合流すると、少年は5人をみまわしてから、セイにむかって名乗った。

「ボクの名前はピーター……」

「ぼくはセイ。よろしくピーター」

 セイはピーターに手をさしだした。その行為にピーターはあきらかに面喰らった様子だった。おもわずうしろを振り向いて、心配そうにピーターをみている子供たちのほうに目配せをした。まるで子供たちに助けでも求めているようにみえる。


 ゾーイにはピーターと名乗った少年のとまどう気持ちがよくわかった。

 自分のような浮浪児、しかもいまのいま盗みを働いたばかりの者に、握手を求めてくるなど意味が、彼にはわからないにちがいない。自分もそんな邪気のないセイの姿に何度も驚かされた。

 ユメミ・セイはいつだって、常識や慣例、自分の経験にすらとらわれない行動を、まるで息をするように、なんの他意もなく自然にふるまう。どの時代の、どんなみてくれの人物でも、先入観なく接して、ひとがどう見ているか、ではなく、自分自身がどう思うか、を一番大事にする。

 

 姉スピロも、そしてわたし自身もそれに救われた……。


 ピーターは目の前にさしだされた手をしばらく不思議そうに見ていたが、ズボンで手のひらをぬぐうと、おずおずと手をさしだしセイと握手した。

 セイはピーターの手を握ったまま、ゾーイたちほかの面々を紹介した。ひとしきり紹介しおえると、セイはピーターのうしろの子供たちのほうへ歩いていき、腰をかがめてから言った。

「みんな。心配しないで。警察につきだすような真似はしないから」

 それを聞いたマリアとエヴァが異議を唱えた。

「おい、おい、セイ。盗みは盗みだぞ。ガキだからって甘やかしは禁物だ」

「そうですわ。『ここはオールド・ニコルだから、盗まれるほうが悪い』って(うそぶ)いていたのですから、きっちりとお灸をすえるべきですわ」

「盗みはれっきとした仕事さ。本当にわるいのは、怠けてなにもしないこと。ここじゃあ

食事にありつくのは幸運を頼りにするしかない。盗むってことは、その運を自分で掴むってことなのさ」

「まぁ、みごとな哲学ですこと!」

 エヴァが呆れ返るように言うと、セイがくるりとふりむいて笑って言った。

「『(そで)振り合うも多生(たしょう)(えん)』だよ」

「なんですか、それは?」

 博学なはずのスピロが思わず尋ねた。

「仏教のことばでね。道端で袖が振れ合う程度のささやかな出会いであっても、それは前世からの深い緑で起こるのだから、人との絆を大切にしなさい、っていう意味さ」

「なるほど。仏教のことばでしたか……」

 スピロはそのことばに感心しきりだったが、マリアが案の定、文句をつけた。



「おい、セイ。いまが、いまのこの場所が、その『前世』だ」

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