第19話 ぼくの名前はピーター
ゾーイのテレパシーに導かれてセイたちが合流すると、少年は5人をみまわしてから、セイにむかって名乗った。
「ボクの名前はピーター……」
「ぼくはセイ。よろしくピーター」
セイはピーターに手をさしだした。その行為にピーターはあきらかに面喰らった様子だった。おもわずうしろを振り向いて、心配そうにピーターをみている子供たちのほうに目配せをした。まるで子供たちに助けでも求めているようにみえる。
ゾーイにはピーターと名乗った少年のとまどう気持ちがよくわかった。
自分のような浮浪児、しかもいまのいま盗みを働いたばかりの者に、握手を求めてくるなど意味が、彼にはわからないにちがいない。自分もそんな邪気のないセイの姿に何度も驚かされた。
ユメミ・セイはいつだって、常識や慣例、自分の経験にすらとらわれない行動を、まるで息をするように、なんの他意もなく自然にふるまう。どの時代の、どんなみてくれの人物でも、先入観なく接して、ひとがどう見ているか、ではなく、自分自身がどう思うか、を一番大事にする。
姉スピロも、そしてわたし自身もそれに救われた……。
ピーターは目の前にさしだされた手をしばらく不思議そうに見ていたが、ズボンで手のひらをぬぐうと、おずおずと手をさしだしセイと握手した。
セイはピーターの手を握ったまま、ゾーイたちほかの面々を紹介した。ひとしきり紹介しおえると、セイはピーターのうしろの子供たちのほうへ歩いていき、腰をかがめてから言った。
「みんな。心配しないで。警察につきだすような真似はしないから」
それを聞いたマリアとエヴァが異議を唱えた。
「おい、おい、セイ。盗みは盗みだぞ。ガキだからって甘やかしは禁物だ」
「そうですわ。『ここはオールド・ニコルだから、盗まれるほうが悪い』って嘯いていたのですから、きっちりとお灸をすえるべきですわ」
「盗みはれっきとした仕事さ。本当にわるいのは、怠けてなにもしないこと。ここじゃあ
食事にありつくのは幸運を頼りにするしかない。盗むってことは、その運を自分で掴むってことなのさ」
「まぁ、みごとな哲学ですこと!」
エヴァが呆れ返るように言うと、セイがくるりとふりむいて笑って言った。
「『袖振り合うも多生の縁』だよ」
「なんですか、それは?」
博学なはずのスピロが思わず尋ねた。
「仏教のことばでね。道端で袖が振れ合う程度のささやかな出会いであっても、それは前世からの深い緑で起こるのだから、人との絆を大切にしなさい、っていう意味さ」
「なるほど。仏教のことばでしたか……」
スピロはそのことばに感心しきりだったが、マリアが案の定、文句をつけた。
「おい、セイ。いまが、いまのこの場所が、その『前世』だ」




