第18話 牢屋に入れられるのが怖くはないのですか?
「警察につき出してもいいんですよ。でもコインをかえしてもらったら、見なかったことにしますわ。あれは使われては困るお金ですからね」
「はン。あんたらもどっからがくすねてきたってことかい」
「まぁ、泥棒扱いされるとは心外です」
「じゃあ、偽金ってわけか。ぼくは偽金の使用も得意だ」
「お金とは盗むものではなく稼ぐものですよ」
「稼ぐ手段があればそうするさ」
「牢屋に入れられるのが怖くはないのですか?」
「むしろ歓迎さ。飯はクソくらいまずいが、とりあえずベッドで寝られる」
エヴァはなにを言っても食ってかかる少年に、うんざりした。
「ああ言えば、こう言う……。まるで、マリアさんみたいですね」
エヴァは腹立ちまぎれにそう言うと、ゾーイが苦笑しながら少年に声をかけた。
「なぁ、おまえさん。どうして大人たちに頼まないのかい?。頼めば食事くらい恵んでくれるだろうに」
「バカか、あんたは。そんなことをしたら『物乞い』をしたってことで、やっぱり豚箱行きだよ」
そう少年が叫んだとき、どこからかか細い声が聞こえた。
「ピーター……」
エヴァはハッとしてあたりに気を巡らせた。ゾーイもすぐ動けるように、すこし腰を浮かせて身構えた。
「ピーター……」
今度はちがう方向から声が聞こえた。エヴァがそちらに目をむける。
いくつもの目が暗闇にあった——。
エヴァはその視線に驚いて、一瞬、からだをうしろにひきそうになった。だがよくみるとそれはちいさな子供たちの目だと気づいた。まだ3歳か4歳くらいの幼児——。
暗さと霧のせいで見えにくいにもかかわらず、その子供たちのみすぼらしい様がエヴァにはすぐにわかった。
いつのまにかエヴァたちは十数人もの子供たちに取り囲まれていた。
子供たちはみな、目のまわりには隈をつくり、頬がこけていた。まるで死人のようにどろんとした瞳は、石のように無表情で生気を感じられない。髪の毛は色つやなどなくパサパサで、汚れや埃が皮脂で固まるがままに放置されていた。手足は青白く痩せ細っている。ぼろ布のような服に隠れているが、おそらくあばらが浮き出ているだろうとすぐにわかる。 そこには、もはや子供らしい、あどけなさや愛らしさなどどこにもなかった。
「こ、この子たち……」
エヴァの口からおもわず声が漏れでる。それに呼応するようにゾーイも、こころのことばを口にする。
「こ、この子たちは生きてるのかい……。幽霊とかじゃ……」
「生きてる!」
ゾーイが膝で押さえつけている下から少年が叫んだ。
「この子たちは生きてる!。ぼくがみんなを死なせない」
「そのためなら、ぼくはかっぱらいだって、スリだって、たとえ殺しだってやる!」




