第124話 これはオレのドラマだ - ドラキュラ編 - 完結
「はははは、マリアちゃん、うまいこというじゃない。でもせっかく才能があるんだからさぁ。ぼくらと一緒に『キリスト教』のために、働いてみない」
「じょーだん……」
マリアはロルフにこれ以上ないほど、蔑んだ視線をむけて言い放った。
「【これはオレのドラマだ。筋書きはオレが決める!】」
突然異国のことばでののしられて、エラはきょとんとした顔をしていた。ロルフはやれやれという表情を浮かべて、エラに説明した。
「あれはニッポン語、らしいですよ。アニメっていう、カートゥーンとはちがうニッポンのアニメーションで勉強したそうです」
「そう。マリア、ニッポン語しゃべれるのね」
「だからと言って、伯母様、あたしとパパのニッポン送りが正当化されるわけではありませんよ。優秀なダイバーをひとりうしなうのですしね」
「あら、マリア。ニッポンでもダイブは続けてもらいますよ」
「どういうこと……」
ロルフが自分のほうへスマートフォンのカメラを動かして言った。
「そりゃ、そうさ。人手が足りてないンだ。悪魔と戦ってンだよ、ぼくたちぃ。使えるヤツはだれだって使うよ」
「サイコ・ダイブする装置がないでしょう……」
「ご心配なく。アメリカの『コーマ・ディジーズ財団』の協力をもらっててね。瑣末な案件はそちらで処理してもらうことになってるのさ」
「瑣末?」
「そりゃ、そうだろう。マリアちゃんはぼくらと一緒じゃイヤなんだから。重要案件なんかに潜らせるわけにはいかないさ」
マリアは頭に血がのぼるのを感じた。
自分たちの主義に従わないからと排除しておきながら、都合のいい使い方だけはしようとしている。なんて身勝手なひとたち……。
ぐっと握りしめた拳が震えて、悔しさが胸にせきあげてきた。口元がわななき、おもわず涙がこぼれそうになる。
その様子をすこし申し訳なさそうな表情で、エラ叔母が見つめていた。だが、画面に見切れるようにして映っているロルフは、こちらの反応を楽しむように半笑いを浮かべていた。
悔しかった——。心の底から——。
「いつか……、いつか力をつけて、ロルフ、あんたを負かす。それまで待ってなさい……」
マリアはぼそりと言った。
「ロルフ、あんたにあたしの一番大好きなアニメの、カッコイイ兄貴のことばを送ったげるわ」
マリアは人さし指を突き出して、スマートフォンのむこうのロルフを指さして叫んだ。
「【10倍返しだ。 戻ったら10倍返しだ。覚えとけよ】」
ダイブ5 サイコ・ダイバーズ ——ドラキュラ編—— 完結
======================= おまけ =======================
本編に加えませんが、一応、後日談として蛇足の文を書きました。せっかく書いたのでもしよろしければ……。
「で、マリアさん。それでそんなオレ様口調に?」
話を聞き終えた、エヴァが尋ねた。
「さいしょの疑問がそれかよ!」
「気になりますわ。それにわたし、あなたがアニメのセリフをそんなに覚えているとは知りませんでしたわ。でもこの日本では使ってないような……」
「バカか、そんなの日本で使えるかよ。そんなの口にするヤツは、そうとうイタいヤツだって、こっちにきて知ったよ」
「まぁ、たしかに日本でそんなの叫ばれたら、まぁドン引きしちゃいますわね」
「だから使えねぇんだ。それより、おまえンとこの財団から報告があった、勝手にひとの記憶ンなかにダイブしちゃあ、引き揚げしてるヤツって見つかったのか?」
「いくつかの研究機関に打診したんですけどね。どこもダイバーの存在は機密事項なのでなかなか……」
「は、使えねぇな。『野良ダイバー』のひとりやふたり、サクッと見つけてくれよ」
「なんですの。その野良ダイバーって?」
「宗教団体にも、営利団体にも属してないダイバーなんだろ、そいつ。だから野良ダイバー……」
「あいかわらず口さがないのですね。マリアさんは」
「は、そもそもキレイな仕事じゃねぇしな」
「でもお金になります」
「だからキレイじゃねぇーってンだ」
「そのおかげで、自由にダイブできますわ」
「まぁ、そうだな。まぁこれからもたくさんダイブしてりゃ、いつかそいつに出会えンだろ」
---------------------------- 参考資料 --------------------------------
今回もウィキペディアやいろいろなネットの資料のお世話になった。
残念ながらヴラド・ドラキュラの資料は入手しづらかったが、2冊の詳細な本とネット上にある海外ドラマや映画の映像に助けられた。
敵になるメフメト二世のことを調べはじめ、Netflix オリジナルドキュメンタリー「オスマン帝国 皇帝たちの夜明け」に刺激と感動を受けて、どうしてもコンスタンティノープル陥落を描きたい、という意欲にかられた。
だが、時代的にどうしてもそこを描けないというジレンマから、逆にイスタンブールを陥落させる、という発想が生れ、一気にイマジネーションが広がった。
本来はスピンオフのため、すぐに終わる予定だったエピソードだったが、思いがけず長くなったのは、この閃きのせいである。
だが、その分、見せ場やクライマックスシーンはど派手で、かつバリエーション豊かになったと思う。本当は船の上の戦いはじっくり描きたくもあったが、これ以上長くできないと思い、すこしあっさりめにした。いつか似たようなシチュエーションの歴史で、大活躍させたいと思う。
======================= 参考資料 ========================
■ドラキュラ伯爵 ルーマニアにおける正しい史伝
ニトラエ・ストイチェスク著 鈴木四郎・鈴木学 訳 中公文庫刊
■《ドラキュラ公》ヴラド・ツェペッシュ 清水正晴著 現代書館刊
■ヴラド・ドラクラ 大窪 晶与著 ハルタ・コミックス刊
■メフメト二世 トルコの征服王 アンドレ・クロー著
岩永 博・井上裕子・佐藤夏生・新川雅子 訳 りぶらりあ選書・法政大学出版局刊
■コンスタンティノープル陥落す ランシマン著 護雅夫訳 みすず書房刊
■コンスタンティノープルの陥落 塩野七生著 新潮文庫刊
■図説 ハンガリーの歴史 南塚信吾著 河出書房新社刊
■Netflix オリジナルドキュメンタリー
「オスマン帝国 皇帝たちの夜明け」 全6エピソード
======================= 参考文献 ========================
●『ドラキュラ』というテクストあるいは 19世紀西欧における人類学と進化論的状況
ーVictorian Eraの思想的断面ー 関 三 雄
●鋳鉄砲の歴史と技術問題 新井宏
======================= 参考ページ =====================
危うしアヤ・ソフィア
https://4travel.jp/travelogue/10686289
むしろこっちがドラキュラ城!?ポエナリ城のご紹介
https://ameblo.jp/gh3fromrom/entry-11551169084.html
串刺し
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884911968/episodes/1177354054884953814
軍事関係の覚書
https://ncode.syosetu.com/n1685bu/
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