第123話 伯母様、やってくれましたわね
「マリア、それもニッポン語かい。どういう意味なのかな?」
マリアはこれ以上ないほどの笑みを浮かべた。
「これもアニメから学んだのよ。ニッポン語で『では、たっぷりとお礼をしにいきましょう』っていう意味なの」
「ほう、それはいいね」
父は泣き出しそうな顔で無理やり笑ってみせた。
そのとき、スマートフォンが震えて、画面に『エラ伯母様』と表示された。
「パパ、ちょうど伯母様から電話よ。あたしからもお礼をいっておくわ」
そう言いながらマリアは、部屋から追い出すように父の背中をおした。父は抵抗することもなく、部屋の外へ押し出されると、「失礼のないようにね」とだけ力なく言った。マリアはドアをしめて鍵をかけると、受信ボタンを押した。
スマートフォンの画面に叔母、エラ・アッヘンヴァルの顔が映る。
「こんにちわ、マリア。あなたはもうお父様から聞いたかしら……」
「伯母様、やってくれましたわね。あたし、ニッポンに追放っていうことよね」
「追放……?。まさか。あなたがニッポンが好きだからって聞いたから、ぜひとも家族揃って堪能してもらおうと思って……」
「ママは来ないのよね」
「あぁ、ハンナは……、あなたのママはとっても忙しいの。だからすこし遅れるだけ」
「あたしを厄介払いできて嬉しい?。伯母様」
「おお、マリア。なんてことを。わたくしがそんなことを……」
「ロルフ・ギュンターと手を組んでたのよね。だってバチカンの命令ですものね。ただひとの命を救う任務しかしない、聞き分けのないあたしは邪魔なんでしょ」
そのとき、スマートフォンの画面のエラのうしろから、ロルフが顔を覗かせた。
「マリアちゃん。そういう取り方をされちゃあ、学長も答えに困るんじゃないかなぁ」
「ロルフ!!」
マリアは自分でできる一番厳しい目つきを背後のロルフにむけた。
「あんたが黒幕でしょうがぁぁぁ」
「なんだい、マリアちゃん。それじゃあ、ぼくが悪者のように聞こえるじゃないか」
「実際、悪党でしょうが。十二使徒に任命されたいま、伯母様なんかより、あんたのほうが力があるでしょう」
「マリア、伯母様なんか、って、そういう言い方許しませんよ」
「伯母様は黙ってて。あなたにはあたしの人生をずいぶん引っかき回された。もう関わってほしくない」
「わたくしはあなたの才能を見込んで……」
「ええ、そうね。あたしの『サイコ・ダイバー』の才能を見いだしてくれたのは伯母様。それは感謝するわ。でもあたしは伯母様の操り人形にならない才能もすごいの」




