第121話 引っ越さなきゃならなくなったんだ
あのダイブの日から伯母からダイブを頼んでくることはどういうわけかなかった。
マリアは人命教助とは無線のふつうの中学生活を送ることができたが、なんとも満たされない感じを味わっていた。
ダイブから三週間ほど経ったある日、マリアが自分の部屋でベッドに寝そべって、日本のアニメを見ていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「マリア、パパだ。ちょっといいかな?」
マリアはあわてて枕の下にタブレットを隠すと、「どうぞ」と答えた。だがふいにこの時間に父が帰ってきたことに違和感を覚えた。父は外交関係の仕事をしていたが、帰りはいつも遅くて、こんな夕方頃に帰ってきたためしはない。
「パパ、どうしたの?。こんなに早い時間に?」
「ああ、マリア。すまない」
父は申し訳なさそうにことばを詰まらせた。マリアはそんな父の態度がどうも好きになれなかった。父は物腰はやわらかく、とてもいつも自信なさそうに
「何があったの?」
「それがね。今、辞令がおりて、引っ越さなきゃならなくなったんだ」
「引っ越し?。ギムナジウムに入ったばかりなのに?」
「ああ、すまない。」
「で、どこなの。引越し先って?。ハンブルク?、フランクフルト?」
「いやそれが海外なんだ」
マリアはおどろいて父の顔をまじまじと見た。
「海外……、ってどこなの」
父はこれ以上ないほど申し訳なさそうに目を伏せていった。
「ニッポン……」
「ニッポン!」
「知っているかな?、、東の一番端っこにある小さな島国なんだけどね……」
父はそう言うと、マリアの部屋の壁に張ってあった世界地図に歩みよって、そこを指をうとした。が、そこにあるはずだった島の部分が破れて見えなくなっていた。
「あは、この地図じゃあ、わからないね」
「大丈夫、わかるわ、パパ」
マリアはとっさにそう言った。ニッポンに行くことはマリアにとって動揺することだった。だが、父の顔はそれ以上にショックを受けていて、深刻な状態であるようにいるように見えた。
マリアはまだ事態を自分のなかで飲み込めていなかったが、声を弾ませて言った。
「あたし、ニッポンのこと、よく知ってる。大好きな国」
「ほんとうかい、マリア」
父の表情がいくぶん和らいだ。
「うん、あたしニッポンのアニメ、よく見てるから。これでもけっこうニッポンには祥しいつもりよ」
「ああ、そうかい。それは心強いな」
顔のこわばりがとけていくのがわかった。




