第120話 マリアは許せなかった
マリアは許せなかった。
現実世界では自分はただの12歳の少女だというのは理解していたが、500年前の歴史の世界では、あれほどまでに大人げない扱いで接してきたのだ。
「あなたたち、いまさら子供扱いはないんじゃないかしら。あたしをずいぶん危険な目に逢わせておいて。ロルフに唆されていたとしても、詫びのひとつもあってもいいと思うけど、どうかしら?」
その訴えを聞いたレオンとノアはゆっくりと歩いてくると、腰を折って屈みこむようにしてマリアに言った。
「マリア、いろいろ助かったよ。ありがとう」
レオンが気持ちがこもっていない口調で言うと、ノアはさらにそっけなく言った。
「ん、ありがとうっ」
「ちょっとぉ、あたし、お礼を言ってくれなんて頼んでないわ。謝ってくれって言ってるのよ」
マリアはふたりを睨みつけたが、レオンがマリアの頭に手を乗せて軽く撫でながら言った。
「ありがとうな。マリア。またいつか一緒にダイブしよう」
マリアは鼻であしらわれたことに猛烈に腹がたった。掴みかかってやろうかと思ったが、エラ伯母が服の裾をひっぱってそれを制止した。その力があまりに強かったので、マリアは驚いてエラ伯母の顔をみあげた。
その顔はにこやかだったが、すごく冷たく、威嚇の色を帯びていた。
面倒を起こすな——。
マリアはそう受け取った。
いつもはすなおに伯母に従っていたが、しかし今回ばかりは我慢がきかなかった。マリアは伯母の手を振りほどいて前に飛び出した。が、そのすぐ前をロルフのからだが遮った。
マリアはパンチを繰り出したが、ロルフはそれを軽々と手で受けるなり、まるで握手していたかのように上下にふってみせた。
「マリア、ありがとう。今日、わたしもずいぶん学ばせてもらったよ」
ロルフは腰を曲げて、顔をマリアの顔の近くまで落としていたが、マリアからするとすぐ真上から見下しているとしか思えなかった。
マリアはこれ以上ないほど蔑んだ目を真上にむけた。だがロルフは余裕たっぷりの笑顔で、真下のマリアを覗き込むようにして言った。
「きみには素質がある。いつかわたしのように、十二使徒に選ばれる日がくると思うよ」
その称賛にマリアは歯がみしたが、エラ伯母は声を弾ませた。
「まぁ、ギュンター教授。なんと嬉しいことを。お世辞だとしても、そんなことを言ってもらえると……」
「いえ、世辞ではないですよ、アッヘンヴァル学長。マリアはいつかそこまで登りつめる。そういう逸材です」
ロルフはマリアにウインクをして「またいつか一緒に」と言うと、ドアのまえで待っていたレオンとノアの背中を押すようにして部屋を出ていった。
マリアはそれ以上なにも言えなかった。そんな自分が情けなくて、悔しくて仕方なかった。前世の記憶世界のなかで、どれほどのスーパーパワーを誇っても、現実世界ではただのギムナジウム(中学生)の生徒でしかないのだ。
マリアは悔しくてしかたがなかった。
『ちくしょう……』