第114話 ロルフがキミごときにやられるはずないだろ
ガラッとどこかで瓦礫が崩れ落ちる音がした。
マリアがそちらの方向に注意をむける。
が、それだけだった。
ロルフはそれ以上の攻撃をしかけてこようとはしなかった。
マリアはハギア=ソフィア聖堂のドーム屋根からそのままおおきくジャンプすると、聖堂前にあるアブグステオン広場に着地した。
そこにレオンがいた。
そしてその足元に、手枷をつけられたメフメト二世が、まるで傅いているかのように、跪いていた。
メフメト二世のまわりは、ワラキア国王ヴラド・ドラキュラ、ハンガリー国王マーチャーシュ公、モルダヴィア国王シュテファン公、そしてその側近たちが取り囲んでいた。そしてメフメト二世のうしろに、後ろ手に縛られ、がっくりと頭を垂れたヴラドの実弟ラドゥがおり、拘束縄をノアが掴んでいた。
「やあ、マリア。きみの抵抗もここまでだよぉぉ」
ノアが晴々とした表情で言った。
「なに言ってるの?、ノア。今あたしはロルフを倒したわ。ここまでなのはあなたたちのほう」
「ロルフがキミごときにやられるはずないだろぉぉぉ」
「まぁ、そうね。すぐに戻ってくると思うわ。その前にドラキュラの首を刎ねさせもらう」
マリアは剣を構えると、ヴラドのほうを見た。
「マ、マリア、わしに手をかけるというのか」
「今さらなにを言ってるの?。ドラキュラのおじさま。あたしの使命は……」
マリアはドラキュラのほうに一歩踏み出したが、その前にレオンが立ちふさがった。手のひらを前につきだして、目の前の空間に超音波の盾を張り巡らせている。
「マリア、もうあきらめるべきだよ」
「どいてくれるかしら、レオン。あたしは正しいことするだけよ」
「ただしいことだけで、世の中は渡っていけないんだよ、マリア」
「ふーーん、ずいぶんロルフの講義はすばらしいみたいね。すっかり洗脳されているもの。でも見てたでしょ。ロルフってこんな幼子を、自分の大儀のために殺そうとするひとよ」
「死にはしないだろ。ここではそういうパワーを授かってる。それにたとえここで命を落としても、ただ21世紀に魂が強制送還されるだけさ」
「心的外傷を負ってね。そこの要引揚者のように」
メフメトを取り囲んだ人々の向こう側にいる、拘束されたジグムントのいる方角をマリアは剣をふって指し示した。
まわりにいた者たちは、マリアが剣を振り回したのに驚いて、あわててうしろにさがった。
人垣が両側に割れると、マリアが指した方向にジグムントの姿がみえた。




