第105話 これってかなり『カワイイ』でしょ?
マリアはマストのてっぺんに片脚立ちでポーズを決めると言った。
「どうかしら?。あたし、『ニッポン』のアニメばかり見てたから、ちょっとは自信があるのよ。これってかなり『カワイイ』でしょ?」
マリアはまだ決めポーズをしたままでいたが、痩せっぽっちの見張りはパニックになって悲鳴をあげた。
「ひぃぃぃ、やっぱり魔女だ。助けてぇぇ」
その悲鳴に呼応したように、銃をもった屈強な兵士が発砲した。マリアは瞬時にぶ厚い刃の剣を呼びだし、それを盾にして銃弾をはね飛ばした。マリアは精いっぱい頑張ったのに、こんな反応しかしてくれないトルコ兵たちに心底がっかりした。
「もう……。『魔法少女・プリティア』のようにいかないってことぉ?」
銃を撃った兵士は軽々と弾丸を跳ね返したマリアを呆然として見ていた。
「じゃあいいわ。路線を変えるからぁ」
マリアは手に持った剣を前につき出して言った。
「ニッポンのアニメにしかでてこないような剣ならどう?」
手に持った剣のブレード部分がガシャンという音とともに、反対側に反転すると、もう一枚の刃があらわれた。
太くぶ厚い二枚の刃が背をむけあって並んだ、双頭の刃ともいうべき剣。しかもその二枚の刃と刃のあいだは、剥き出しの基盤のような怪しげな部品で繋がれ、そこからはプラズマのスパークが走っていた。
「じゃーん。なんかすごそうな剣できたわ」
マリアはその重々しそうな剣を片手で軽々とふってから言った。
「まぁなんか、ほら、あの、そう『厨二病』っぽいところあるけどね。まあ、そこは目を瞑っててもらえるかしら」
マリアはそう言うと、マストのてっぺんから飛び降りて甲板へ降りたち、メインマストの根元めがけて剣を一閃した。マストはいとも簡単に、根元からへし折れた。マストが隣の帆船のほうに突き出すように傾ぎはじめる。船体はそのマストの傾斜にひっぱられてバランスが崩れ、次第に片側がうきはじめた。甲板の上で右往左往していた兵士たちが、斜めになった甲板の上を滑り落ちていく。
マリアは倒れていくマストの上を、てっぺんを目指してダッシュした。そしてその終端部分で踏み切ると、思いっきり跳躍した。
隣を航行する帆船まではゆうに30メートルは離れていたが、せり出したマストから踏み切れたおかげで悠々ジャンプすることができた。
マリアは飛び移った船でもおなじことをした。大剣でマストを切り倒すと、マストが自重で傾くにまかせた。一番岸壁にちかい場所にいた帆船のほうにむけて、マストが倒れていく。
マリアは甲板の上で兵たちが大騒ぎになっているのをよそに、倒れたマストの上を駆け抜けそのままジャンプした。