第100話 レオン、そろそろ仕上げにかかる
ストイカが不適な笑みを浮かべると、ヴラドもそれに加担した。
「そうだ。そなたがいかに凄い力を持っていようとも、どうでもいい」
ヴラドはイスタンブールのほうを指し示した。
「見ろ。あの城壁のうえにはためくキリスト教国の旗を!」
ロルフはテオドシウスの城壁の方に再び目をむけた。城壁の上には先ほどとは比べものにならないほどの旗があがっていた。
「そうですね」
そう言うとロルフはレオンの元へむかってきて耳打ちした。
「レオン、そろそろ仕上げにかかる」
「仕上げ?」
「ああ、あの少年……、ジグモンド君にはたっぷりトラウマを植えつけられたようだからね」
ロルフはレオンの背後にいる少年を、満足そうに見つめていた。
レオンは、最初、ジグモンドは死んでいるのではないかと思った。彼は首をうなだれ、縛りつけられた椅子から落ちそうな姿勢で、一点を見つめたまま、口をぽかんと開いた状態で動かなかった。顔面は蒼白で、生気はずいぶん前に抜け出したように見える。
だがよく見ると、縛りつけられたからだが小刻みに震えているのが見てとれた。痙攣に近い随意筋の蠕動。
「ジグモンド、君の大好きだったイスタンブールは今、陥落したよ」
ロルフが声をかけたが、少年は唇をわずかにふるわせただけで、何もことばを発しなかった。
「君が憎んでも憎みたりない、ブラド・ドラキュラの手によってね」
ロルフが顔を近づけて追い討ちをかけると、少年の目からツーッと涙がつたい落ちた。
あまりに残酷な仕打ち——。
レオンはロルフの行動に嫌悪感が湧きあがってくるのを感じた。頭で理解はしていても、生理的に受け付けがたかった。
「ぼくを軽蔑するかね」
ロルフはレオンの方にふりかえりもせず訊いた。
「あ、いえ。それが神の意思ですので」
「子供じみた正義感にはとらわれんことだ。神の御心に寄り添う行為ことこそが、正義なのだ」
「ええ。それを疑ったことはありません」
ロルフはくるりとふりむくと、満面の笑みで言った。
「さすが特待生。いい返事だ」
レオンはふたたびつきあげてきた嫌悪感を、ぐっと飲み込んでから確認した。
「打ち合わせ通りで良いですね」
「あぁ、まずは悪魔の配下どもを排除する」
そう言うとロルフはツカツカとヴラドの前に進みでた。
「殿、そろそろ、メフメト二世を討ちにいかせていただきます」