第94話 ソロモン霊の72柱の悪魔デカラビア
ストイカはみんなが見ている目の前で、ゆっくりと体躯が大きくなっていきはじめた。
背後に匿まわれていたヴラドは、驚愕に打ち震えていたが、その顔も次第に隠れて見えなくなった。
「殿に手をかけさせはいたしませんよ」
その口調が変わった。ストイカはすこし女性のような声色でそう言うなり、一本の抗をマリアに飛ばしてきた。弾丸のようなスピードだったが、マリアは真っ正面からたたき割った。
「正体をさらしておいて、まぁだ、忠臣をきどってるの?。あなた、ただの悪魔じゃないのかしら。あなたがドラキュラおじさんを守っているのは、歴史を書き換えられたくないからだけでしょ……」
マリアは自分の背後のロルフにチラリと視線を投げかけた。
「このひとたちと同じでね」
ロルフはマリアにうんざりとした顔をすると、手のひらを上にむけてクッと持ちあげた。そのとたんロルフの足に刺さっていた剣が引き抜かれて空中に舞いあがった。
「なによぉ、ロルフ。簡単に抜けられるのね」
ロルフは刺された足を光のシャワーで修復しながら、ゆっくりと立ちあがった。
「抜けないわけはないだろ。ふいを喰らったから、ちょっと時間がかかっただけだよぉ」
ストイカが大きな体躯を揺らしながら、前に一歩踏み出してきた。
「さて、マリア、殿には手出しさせませんわよ」
そう言いながらうしろを指し示した。そこにあの少年がいた。
「おかしな動きをしたら、この子を殺しますわ」
「あら、あなた賢いわね。弱いなりにわかってるのね、自分の力を」
「はん、言ってくれるじゃない。でも弱くはないわよ」
「そうは見えないけど……」
「あたくしはソロモン霊の72柱の悪魔デカラビア」
それを聞いたヴラドが呻いた。
「72柱の悪魔だとぉ……」
うしろのほうで警護人に守られながら成りゆきを見守っていたマーチャーシュ公もシュテファン公も息を飲む。こころなしか顔色が蒼ざめて見える。
マリアはロルフのほうをふりむいて聞いた。
「ロルフ、デカラビアって強いの?」
「強いさ。ソロモンの霊72人の序列69番だけど、30軍団を率いる地獄の大侯爵だからね」
「黄道十二宮とどちらが強いの?」
「いやぁ、さすがに比べものにはならないよ」
「そうなんだ。じゃあ、なんでそんな弱い悪魔と組んでるの?。寝返るならもっとすごいヤツに寝返りなさいよね」
「寝返る?。マリア、バカなことを言わないで欲しいな」
「あらそうかしら。あたしには要救助者を救わない時点で、寝返っていようがいなかろうが、どちらだって一緒よ。結論がおなじなら自分を正当化する理由なんて、聞いてもしかたがないわ」