第92話 マリア、ヴラドを強襲!
ロルフが叫んだが、本能的にヴラドを救おうとしてマリアから目が離れた。
マリアはすぐ脇にあった幕舎の柱を蹴飛ばすと、横っ飛びでレオンの脇に飛び込んだ。レオンがうしろを気にしたせいで、正面に展開していた『超音波の盾』が中心がずれたところを狙った。
マリアはレオンの背後に転がりでると、すぐさまあたらしい長剣を手の中に呼び込んだ。
目の前に無防備な姿をさらしたヴラド・ドラキュラがいた。
「させるかぁ」
レオンは振り向きざまに叫んだ。
マリアはおおきく跳躍すると、ヴラドの首にむかって剣を横一閃に振り抜いた。
「いただきぃぃぃぃ」
が、その刃はヴラドの首の寸前で止まった。ほんの数ミリの隙間。だがそこから先に刃が動こうとしない。
レオンの見えない盾!!。
マリアは空中に浮いたまま、渾身の力をこめる。じりっと刃が動く。
ヴラドは首筋に触れそうになったマリアの刃を避けようとしたが、足をすべらせてその場に尻餅をついた。まだ刃先は触れてもなかったが、足に力がはいらなかったのだろう。
その場に座り込んでしまったヴラドの高さは、マリアにとって願ってもないものだった。
今度はヴラドにむかって、マリアは上から剣を振りおろした。
その瞬間、剣の太さが変化する。剣全体が斧ほどの厚みと身幅(刃の横幅)に膨らんだ。アニメかゲームにしかでてこないような非現実的な、武骨で大きすぎる剣がそこに現出した。
マリアは首を刎ねるのではなく、頭蓋骨ごと叩き潰すつもりだった。
が、またもやレオンの『超音波の盾』がそれを阻んだ。
ヴラドの頭の10センチほど上で刃先が止まった。目と鼻の先まで打ち下ろされた剣をみあげて、ヴラドがその刃をにらみつけた。ここにきて君主としての矜持をなんとか取り戻そうとしているようだった。
「ドラキュラおじさん。たいへんよく我慢できたわね。でも逃がさないわよ」
そう言ってマリアは渾身の力をこめた。ぐぐっと刃先が下に沈み込み、ヴラドの顔に近づく。マリアはちらりとレオンを振り向いた。レオンは両手をつきだして、自分の力を行使していた。
「レオン、力であたしに敵うとでも思ってる?」
マリアは正面に向き直ると、ヴラドの目をみつめて剣をもつ手に力をこめた。
また刃先が沈み込むと、ヴラドのかぶっていた兜を切り裂いた。刃先の一部がヴラドの額に縦向きに一筋の線を刻む。その線からじわっと血がにじみ出た。
だが、ヴラドはそこまで追い込まれても、唇を噛みしめてマリアを睨み続けている。
「レオン、空の防衛はもういい。すべての力を使え」
ロルフが背後で叫ぶように指示した。