第87話 あのスピードの剣先を受けとめられるとはね
「あのスピードの剣先を受けとめられるとはね、まいったよ」
マリアは剣と剣の隙間から、ロルフを見あげながらにっこり笑った。
「哀れなロルフ。あなたの剣には致命傷があるのよ」
「致命傷?。そんなものがあるはずが……」
「風を感じるの。切っ先が届くより先に、風があたしの頬をなでるの」
それを聞いてロルフが、目を大きく見開いた。
「おどろいたな。今までだれにも見破られたことなどなかったのに。まさか……」
「ロルフ。みんな知ってたと思うわ。でもその剣を受けきれなかっただけ」
「だけどマリアちゃんはそれを受けきった」
「そりゃそうよ」
マリアはロルフと剣をまじえたまま、柄(ヒルト)に力をこめた
その瞬間、剣の幅が横におおきく広がった。マリアが手にしているのは、刃の幅が10cm程度もある幅広の「ブロードソード」だったが、それが一瞬で30cm以上の幅に広がり、厚みも一気に増して、分厚くなった。
「なるほどね。自在に剣を変えられるのか。まるで断頭台のギロチンの刃かと思ったよ」
「受ける必要がないの。瞬時に盾になってくれるから」
ロルフは額に手をやり、まいったという仕草をしながら苦笑した。
「きみが銃弾や矢を防ぎながら、いっぺんに何人もひとを斬れるのはそういうことか……」
「まわりから残影にしか見えないでしょうけどね」
「さすがだ。きみがぼくらのチームにいないのが至極残念で仕方がない」
「あなたが、揚引揚者を助けるなら、いまからでもチームになれると思うわ。ロルフ。ねぇ、レオン」
マリアはロルフのうしろにいるレオンにおざなりに声をかけた。レオンはヴラド・ドラキュラの前に盾になって立ちはだかっていた。レオンはこちらを睨みつけて言った。
「そうはいかないのさ。マリア」
「なにがよ!」
「残念だけどね、マリアちゃん……」
ロルフはマリアに哀れむような目をむけて言った。
「バチカンから『ダイバーズ・オブ・ゴッド』にくだされた命令はそうではないんだ」
「どういうこと?。人の命を救うこと以上に、ただしい命令なんてはないと思うわ」
「いいや、あるのさ。キリスト教の神に仕えるものとしてね……」
ロルフは威風堂々とした顔つきで言った。
「イスラムとの戦いに勝てと!」




