第85話 ドラキュラ、覚悟ぉぉぉぉぉ
「ロルフさん。ジグムントにマリアを応援させては、マリアのパワーが……」
レオンが不安げに声をかけてきた。
「レオン、心配はいらないよ。ジグムントがそう願えば、我々にもおなじように力をふりわけられるのさ。手に力を宿らせてみてくれ。先ほどまでよりパワーが宿ってンだろ」
そう言いながら、ロルフは手のひらをぐっと握りしめた。握った手の隙間から目を刺すほどの鋭い光が漏れていた。
うむ、いい感じだ。
ロルフは光が漏れでるその手を剣に添えた。剣が剣先まで虹のようなスペクトラムに彩られた。
「ロルフさん、たしかに体の奥底から力が湧いてくるようです」
レオンの声が嬉しいおどろきに弾む。
「レオン、その力でドラキュラ公を守ってくれよ」
「えぇ。もちろんですよ。これだけの力があれば、さっきみたいにトルコの大砲を受けとめながらでもやれますよ」
「過信しちゃだめさ。マリアはそんなに甘くない!」
その時、正面から棚引くような声がきこえてきた。マリアが剣を抱えて空中を走りこんできていた。もうそれほど余裕がない。
「レオン、たのむ」
ロルフは剣を構えた。
「ロルフ!。この重切り者ぉぉぉぉぉ!」
マリアの声がとびこんでくると同時に、その小さなからだがさらに上空に踊った。こちらにむかって大きく跳躍すると、その勢いのまま剣をふりおろしてきた。
ロルフは剣をかざしてそれを受けた。
重いっっっ!
剣を交わしたそのままの姿勢で、からだがズンと地面に沈みこみそうに感じられる。
なんというパワだぁぁぁぁー!!。
幼女の見た目に油断したわけではないはずなのに、その小さなからだから繰り出される剣のあまりの力強さに驚いた。
「ロルフさん!」
からだがぐらついたのが見えたのだろう。レオンが声を叫んだ。
「レオン、キミはヴラドを守れ」
ロルフは渾身のちからでマリアの剣をなんとかはじき返し、その一瞬の隙から叫んだ。ロルフにはね飛ばされたマリアは空中で回転し地面に着地した。
が、着地するやいなや、マリアはくるりと方向転換してロルフの脇をすりぬけ——、あっという間もなくヴラドの方へ駆け抜けた。
ちっ!。端っから、私など相手にするつもりはないか!。
ロルフは完全に虚をつかれたと感じた。
あらたにパワーが充填されたことで、ぜったいに『力業』でこちらをねじ伏せにくるとロルフは踏んできた。
だがその読みをはずされた。
凄まじいパワーをわざと見せつけて、こちらを警戒させたのち、マリアが生来持ち合わせているすばしっこさで勝負を決めにきた。完全に作戦負けさせられた。
ロルフがうしろを振り向いたときには、すでにマリアは大きく跳躍して、ヴラドの首めがけて水平に剣を振り抜こうとしていた。
「ドラキュラ、覚悟ぉぉぉぉぉ」




