第80話 レオンは大スペクタクルに興奮していた
レオンは目の前でくりひろげられる大スペクタクルに興奮をおさえられなかった。
ロルフの『風の斬撃』があの難攻不落を誇ったテオドシウスの城壁を次々と破壊し、それに勢いづいた何万もの兵士が一気呵成に突撃していく。それを応援するように、十字軍側からの大砲の砲撃が敵陣深くに撃ち込まれると、土や砂の柱をはねあげ、あたりの兵士を一掃する。
トルコも城壁から火力にまさる大砲を放ち、おびただしい数の矢を射かけてくるが、そのほとんどをレオンの超音波の盾が食い止める。その力にとまどっていた十字軍の兵士たちも、中空に無数の砲弾や矢が静止したままの状態を受け入れると、空を覆い尽くすような攻撃が放たれてもかまわず、突進していった。だれも恐怖や驚嘆に足をとめるものはいない。
剣と剣が噛む甲高い金属音、ボーガンから放たれた矢の風切り音、銃声。
肉が切られる音、ひとが倒れる音、防具が砕かれる音、ひとの叫び声、断末魔の悲鳴。
眼下の戦場がありとあらゆる『死』の音で満たされはじめた。
ロルフが剣をおおきく縦に振り抜くのが見えた。
見えない風の刃がその進路にいるひとや物を避けながら、テオドシウスの城壁を縦に切り裂いた。内城壁の一箇所におおきな亀裂が入ったかと思うと、あたりのレンガが一気に崩れる。と同時に、その隙間から光が差し込んだ。
「うおおお。ついに城壁に隙間が!!。あそこから内部へ突入できる!」
興奮して叫んだのはヴラド・ドラキュラだった。一緒に戦況をみていたシュテファン公は、あまりのことにことばすらでない。だがマーチャーシュ公はすぐに、ロルフにむかって指示を出した。
「も、もっと左にあるあの『ハリシオス門』を……。あそこを破壊すれば大宮殿までの大通りに直結しています」
レオンはマーチャーシュが指をさす方向を見た。自分たちのいる本営からは、リキオス川を挟んでさらに1キロほど左に、おおきな門があるのが見えた。
「なるほど……、痛み入ります。マーチャーシュ公」
ロルフは呟くように、マーチャーシュへ謝意を述べると、からだを『ハリシオス門』のほうへむけた。腰をおとして、剣をふりかぶる。
近代兵器のミサイル並の破壊力を誇るロルフの剣。レオンが心がはやるのを感じた。
が、そのときその門の前でなにか異変が起きていることに気づいた。
まるで吸い寄せられるように、十字軍兵士たちが一点にむかって突進していたが、次の瞬間、まるでそこだけ無重力になったかのように、兵士たちが空中にはね飛ばされていた。ポンポンとゴミでも放るように、ひとのからだが宙に舞い、あたりに飛ばされていく。
レオンは目をカッと見開いた。
マリアだった。