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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
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第2話 まるでおまえが潜っているときと似た波形なんだ

『なんでこんなに(よど)んでいる?』

 叔父の夢見輝雄の依頼をうけて、DNAの海に潜った夢見聖(ゆめみせい)は、そこが思いもよらないほど淀んでいることに驚いた。


 自分がダイブする前にモニタで確認した患者はイタリアの少女で、まだ小学校にあがったばかりくらいのあどけない顔立ちだった。まだDNAが汚れるような年齢ではない。ふつうなら水底からの眩しい光が行き先を導いてくれるのに、この子のDNAの海は下から薄ぼんやりとした明かりが灯っている程度にしか感じられない。

 あまりに視界がわるいので、螺旋(らせん)状に丸まったDNAの塩基にぶつかりそうになる。ときおり、下から上へあがってくる短い光のパルスが照らしてくれなければ、DNAの螺旋に絡まってもおかしくないレベルだった。

『この子の脳波がおかしな波形を描いていたことと関係があるのか?』


 ふと聖は自分がダイブする直前の、叔父の夢見輝雄とのやりとりを思い出した。


「叔父さん、その子の脳波がおかしいってどういうこと?」

 聖はモニタに映る白人の少女の寝顔をじっと見ながら、輝雄に疑問を投げかけた。輝雄はモニタ画面の下方に表示されているいくつもの計測データのグラフのなかのひとつを指し示した。

「聖、この子は今回依頼のあったイタリアの少女なんだが、なんだかおかしいんだよ」

 聖は叔父夢見輝雄が疑問をおおっぴらに口にしてきたことに驚いた。

 輝雄は聖の協力もあって、いまでは『昏睡病』の世界的権威とも言える立場で、官民財が出資するこの『昏睡病センター』の所長でもある。

 当然、その「なんだかおかしいんだよ」はトップ・シークレットの事項であるはずなのに、疑問を構わず口にできる叔父の鷹揚さにはいつも振り回される。

 実際、聖が軽く目を配っただけでも、周りで叔父の指示に従って忙しく立ち働いているゼミの学生たちは耳をそばだてているし、何人かいる職員のひとりは手を休めてこちらを見ている。 叔父はよくもわるくも目の前に『命題』を突きつけられると、なりふり構わず猪突猛進するタイプなのだろう。まじめだとか、ひとがいいと言えば、ことばはいいが、誰かに出し抜かれたり、騙されたりすることは考えていない。

 研究者としては優秀だが、責任者としては疑問符がともる。

 自分とおなじようにそれを危惧してか、娘の広瀬・花香里(ひろせ・かがり)がその横で苛だった様子で腕を組んで立っていた。

「もう、父さん。そんなことを軽々しく口にしないの!」

「ん、あぁ、そうか。悪かったね」

「ところで、聖、この子の脳波計の波形を見てくれないか」

 輝雄は娘の忠告などどこふく風とばかりに聞き流すと、聖をモニタの前に連れて行った。聖は促されるままにモニタに目を転じた。


 そこにはすこしエッジが立った折れ線が刻まれているグラフがあった。すこし違和感のある波形であったが、それがいつもとどう違うのかがわからない聖は、輝雄にむけて肩をすくめて見せた。

「いつもを知らないから、どう違うのかが……」

「まるでおまえが潜っているときと似た波形なんだ……」

「ぼくが潜っているときと?」

「お父さん、それはどういう意味なの?」

 かがりが思わず脇から口を挟む。

「それがわからんから困っているんだよ」

「わからないって……、お父さん。世界的権威なんでしょ」

 かがりの声がすこしヒステリックな色を帯びてきているようだったので、聖が輝雄に言った。

「叔父さん。ぼくが潜って確かめてくる」

「だが、まだ安全に潜れるかどうか確認してからじゃないと……」


 聖は叔父の肩に手をやって、にっこりと笑って言った。

「安全じゃなかったら、その子を助けないわけじゃないでしょ」


「ぼくにできるのは、目の前の患者の『魂』を引き揚げること。それだけだよ」


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