第67話 テオドシウスの壁
次の日、メフメト二世はテオドシウスの壁の案内をするので、同行するようにと命令してきた。驚いたことに、メフメトはラドゥに加えて家臣4人だけという驚くほどすくない人数しか引き連れてこなかった。
マリアたちはテオドシウスの城壁の、三層の壁のなかでも最も内側に位置する『内城壁』上の通路『歩廊』を歩いていた。そこはもっとも高い城壁で、高さ20メートル近い高さに、5メートルもの厚みがある守りの要の壁であった。
その『内城壁』の手前にはパラティキオンと呼ばれる通路を挟んで、一段低い場所に高さ10メートル、幅2メートルの『内城壁』が、さらにペロポリスと呼ばれる通路を挟んで『最外壁』が築かれていた。
そして『最外壁』の手間にある幅20メートル超の外堀が、敵の突入を阻んだ。
「聞かせてもらえるかしら?。どういう風の吹き回し?。それにずいぶん護衛がすくないわ」
「ふ、マリア。どう拘束しようと、どれだけの兵をつけようと、おまえには雑作もないのだろ。では拘束は無駄なことだ。それに余はおまえに興味があるからな」
「あたしに?。スルタン。まさか幼女趣味とかそんなんじゃないでしょうね」
「ちょ、ちょっとぉぉぉ、マリア。失礼なこと言っちゃあ、だめだよぉぉ」
ノアがあわてふためいた。
どうやら今日のノアは、いつも通りのようだった。
メフメトはやさしげな微笑みを浮かべて、マリアを見おろした。
「余がおまえに興味があるというのは、未来人の力、というのを知りたいということだ」
「知ってどうするわけ?。勝てっこないわよ」
「かもしれん。だが余はこのイスタンブールが陥ちるとも思っておらん。おまえたちに、どれほどこの城が難攻不落であるかを知ってもらいたいな」
「それで徹退するとでも?」
「いいや。だが、この美しい都が破壊される、ということを知ってもらいたいものだ」
「まぁ、どの口が言うのかしら。おじさんがさんざん破壊して奪ったじゃないのかしら」
「ま、そう言うな。あの時、余は20歳。なにがなんでも国内外に力をしめす必要があったのだ。12歳の時、父にスルタンの地位を譲られながら、力不足を理由に帝位を返上させられたことがあったからな」
「まぁ。12歳って今のあたしと同じ年じゃない。その年で君主ってあなたのお父上も無茶をされるのね」
「だが、余はやれる自信はあった。なのに大宰相のハリル・パシャの進言で返上させられた。どれほどの屈辱だったか……」
「で、その大宰相はどうなったの?」




