第61話 マリアちゃんとノアが捕まったヨ
無事にマリアとノアがトルコ兵に拘束されたのを、ワラキアの本営から見届けたロルフがヴラドに言った。
「順調、順調。殿、予定通り、マリアちゃんとノアが捕まったヨ」
「ロルフ、本当に大丈夫なのだろうな?」
「殿、なぁ〜にを心配してンのサ」
「メフメト二世は二人を見せしめに、殺してしまうのではないかね」
「だったら、なんなの?」
レオンはそのロルフのことばがひっかかった。まるでそんな瑣末なことを気にしているのか、と言わんばかりのニュアンスが気分を逆なでた。自分で危険なところへ飛び込ませておいて、捨て駒のように切り捨てるような言い方だ。
「もし、そうなったら、そなたの計画は失敗なのではないか?」
「ンまぁ、そうなるね」
ロルフはヴラドにむかって肩をすくめて言った。
「だって、マリアちゃんがメフメト二世の頭、刎ねちゃうと思うから」
「ふ、なるほどな……」
事も無げに言ってのけたロルフを見ながら、ヴラドが口元を緩めた。隣に侍るストイカもつられるように破顔している。
だがレオンはなんともいえない違和感を覚えた。
そう、それでいいはずだ。
メフメト二世の首を落としてしまえば、ミッションは完了するはずだ。
だがロルフはどういうわけか、イスタンブール陥落を強硬しようとしている。
不自然きわまりない——。
レオンの脳裏にそんな疑念が浮かびあがる。
ロルフはティーンの頃から天才ダイバーとして有名で、今まで引き揚げした人数は多く、しかもその成功率は90%程度と、世界でも屈指のレベルを誇っていた。
今回のように一緒にダイブする機会に恵まれて、その力を間近で体験し尊敬の念をさらに強くした。
彼にあるのは類い稀な能力だけではない。圧倒される膨大な知識、先鋭的で的確な戦略、恐怖に怯まぬ胆力など、レオンは自分にないものをいくつも合わせ持つロルフの真の凄さを見せつけられた。
だからこそ、この戦いに身を投じるという選択は、あきらかにおかしい、と感じる。
選択を間違えているのではないか——?。




