第58話 ヴラド十字軍集結
「たしかに大砲や弓矢の攻撃はことごとくレオン殿が防ぎ、多勢の攻撃はロルフ殿が一気に薙ぎ払ってくれました」
ストイカが満足そうにそう続けた。
うしろに控えていたレオンとノアは誇らしげな表情で胸を張った。
「そなたたちがおらなんだら、我のような小国の主が、ここまでの大それたことができようはずもなかろう」
「殿、もう満足しちゃってンのぉ。早いよ」
ロルフが呆れ返った口調でヴラドに言った。
「ああ、そうだな。喜ぶのはあの難攻不落のテオドシウスの城壁の門をくぐってからだな……。それと、そなたらはスルタン、メフメト二世の首……だったな」
「ロルフ様、どのように攻撃されるつもりか。あなたの計画をお聞かせください」
ストイカがおずおずと尋ねた。
「わたしは、このマリアとノアを内部に潜入させ、内側からこの『ヴラド十字軍』を引き入れさせようと思っております」
「ヴラド十字軍?」
「えぇ、殿。だってそうでしょう。この軍を端から端までよぉく見てよ」
ロルフが大袈裟なジェスチャーで、右端から左端を手で招くようにして指し示した。
ヴラドたちのいる本営の両側に5キロメートルにわたって、いくつもの国の軍が陣を張っているのが目に入ってくる。
アルバニア、ボスニア、ラグーサ、キプロス、ロードス、レスボス、トランシルバニアなどの小国の旗だけでなく、停戦協定を結んだモルダヴィア、やっと嘆願を聞き届けて兵をあげたフニャディ・マーチャーシュ公のハンガリーの旗もはためいていた。
そしてその旗のそこかしこに、終端が広がるようにふくらんだ『十字』の旗があった。ピウス二世の呼びかけヴラドの連戦連勝の報に心沸き立ったヨーロッパ諸国が、はせ参じた『十字軍』だった。ピウス二世の呼びかけがついに実ったものだった。
「今やこんだけ、おおくの国が兵を挙げてくれてる。でも、この国々を集わせ、たのは、ワラキアの連戦連勝の戦果のおかげだよね」
ロルフは鷲に三カ月が描かれたワラキアの旗を指さして続けた。
「みんなこのワラキアの旗のもとに集ってきたんだ。そしてこの膨大な兵を指揮するのは、殿、あんただ。なら『ヴラド十字軍』って名乗っても、だれも咎めやしないだろ」
またも芝居がかったジェスチャーに、マリアはうんざりする思いだったが、ヴラドはこのわざとらしい称賛が悦にいったらしく誇らしげに胸を張った。
「嬉しいことを言ってくれる。『ヴラド十字軍』か……。おおいに気に入った」
ヴラドがにやりと口元をゆるめて、ロルフに尋ねた。
「で、いつその作戦を決行するのだ?」