第56話 敵陣にもぐりこんでくれるかな?
「壁のむこうに侵入しろですって?」
イスタンブール攻略の決行日前夜、マリアは幕舎の中で作戦についてロルフから説明を受けた。
「そう。敵陣にもぐりこんで、メフメト二世を探しだしてきて欲しいンだよねぇ」
「なぁ〜に、また敵陣に切り込んでいって、敵将の首とってこいっていうわけなのね」
「いやちがうさぁ。探してコンタクトをとるだけでいいの」
「ちょっと、口ルフ。どういうこと?。まったく意味がわかんないわよ。12歳の子にわかるように言ってちょうだいな」
マリアはロルフにそう文句をたれたが、どうやらレオンもノアもわかってないらしかった。レオンがおそるおそる疑問を口にした。
「ロルフさん、ぼくも言っている意味がわからない。だいたいいくらマリアが凄腕だからって一人で敵陣に侵入するなんて……」
「だれがひとりだってぇ?。ノアも一緒だよ」
ふいに自分の名前がとびだして、ノアが大騒ぎをはじめた。
「ちょ、ちょっとぉ、ロルフさあん、どういう意味なんですかぁ。どうしてぼくの名前がでてくるのおぉ」
「ノアぁ。だーってキミ、思念を送る力を持ってるじゃないのサ。出し惜しみはなしにしようぜ。そのテレパシーの力でボクらに状況を教えてよ」
「で、でも……、ぼ、ぼくの思念波はそんなに遠くまでとどかないですよぉぉ」
「なあに、Wifi程度なのぉ?」
「そ、そんなに短くはないよ、マリアぁ。だけど、何キロ先に送れるほど便利なもんでもないんだよぉ」
「んじゃあ、どうすればここまで届くのサ?」
ロルフはノアの思念波をあきらめていないようだった。
「ロルフ、あなたがノアに無理強いする意味がわかんないわ」
そう指摘すると、ロルフは嘆息して言った。
「マリアちゃん、なんども言ったろ。あの少年の望みはメフメト二世を殺すことだって。だからそのメフメト二世に、見えないとこで勝手に死なれても、どこかで殺されても困るんだよね」
「自分の目でメフメト二世の死を確認しないと、あの子の魂は浄化しないっていうわけ?」
「そう、そのとおり。さーすが、マリアちゃん。飲み込みがはやい」
「ふうん、だったらあたしがひとりで侵入してそのスルタンの首をとってきて、城壁の一番上から掲げてみせるけど?」
「ま、それでもいいんだけどサ。たぶんマリアちゃんだったら出来ちゃうだろうし……。でもその首を見ても、少年の未練が晴れなかったりしたら困るンだよね。たとえば顔が潰れちゃって判別できないとか、そもそも少年がよく顔を覚えてないとか……」
「じゃあ、どうするつもりなの、ロルフ?」
「あの少年をメフメト二世の前まで連れていって、それから首を刎ねるのが間違いないンじゃないかねぇ、すくなくともボクはそれが一番の安全策だと思ってるのサ」
レオンが腑に落ちたと言わんばかりに思わず口走った。
「それでノアの思念波が必要なんですね。城内に入ったときにスルタンの元まで案内してもらうために」
「レオンくん、そのとおーり」
「ロルフさん。じゃあぁ、あなたたちが城内に少年と入場してくるときに、ぼくが思念波で誘導すればイイってことぉ?」
「ノアくん、大変よくできました」
「なによ。まどこっこしいわね」
マリアがにっこりと笑って、胸を張ってみせた。
「そんときは、あたしがなかから門を開けるか壊すかして、合図してあげるわよ。見たこともないようなド派手な花火をうちあげてね!」




