第55話 ドラキュラ率いる十字軍がイスタンブール奪取に挑む
ヴラド軍はこの奇襲にも動じることはなかった。
ノアの物見の力で敵のひそむ場所を見破ると、逆に奇襲をしかけた。
武器や兵器の物量差や兵士の人数差は、レオンの作りだす見えないシールドで対抗した。トルコ軍の弓矢や鉄砲、大砲などはレオンの力でことごとくねじ伏せた。
トルコ軍が恐怖したであろうことは想像にかたくない。
夜陰に乗じてヴラドたちに奇襲をしかけたのに、その動きが察知されており、矢や鉄砲をしかけても、敵陣にとどかない。そのうちに自分のまわりに不思議な風がふきはじめたかと思うと、あっという間になぎ倒されたり、無数の刃としてからだを斬られたりする。
さらに断腸の思いで撤退を選択しても、その途中で剣をもった『蛮行の少女』が通せんぼをしているのだ。
ヴラドたちの快進撃はヨーロッパ諸国にとどろきはじめた。
そしてオスマン=トルコ領内に進攻すると、さすがのハンガリー君主のマーチャーシュも、動かざるをえなくなり、ドナウ川に船隊を派兵することを決定した。だが、そのときマーチャーシュは『コンスタンティノープル奪還』を誇らしげに提唱し、教皇ピウス二世に十字軍結成を呼びかけ、あたかも自国がその先頭に立っているがごとく振る舞った。
これにヨーロッパ諸国はすぐさま呼応した。
キリスト教の聖地である、ビザンチン帝国(神聖ローマ帝国)を滅ぼされたという悔恨の思いを抱く諸国は、その挽回の機会を得たと感じ、今度は競うように自国軍を教皇の元にさしむけた。
ヴラドがイスタンブールを取り囲む頃にはその軍勢は1万5000ほどから、5万超に膨れ上がっていた。マーチャーシュの海軍を加えれば、10万人近くにもなり、20万もの兵を擁するメフメト二世の軍勢と一戦を構えるに足る数になっていた。
希代の征服王メフメト二世は、追いつめられていた。
内偵者からの情報では、メフメト二世はイスタンブールにろう城し、ヴラドを迎え撃つ作戦を選択したとのことであった。自分がたどってきた道を思い返せば、首都を守るテオドシウスの城壁の内側にいることが、どれほど心強いかを身をもって知っているだろう。
あまたのイスラム教国やアッティラ族など、あらゆる東方民族が落とせなかった、難攻不落の城壁におのれの命運を託し、最大の戦力をもって守備を固めるのが最上の策なのはまちがいなかった。
コンスタンティノープル陥落から9年——。
1462年 ヴラド・ドラキュラ率いるキリスト教十字軍が、イスタンブール奪取に挑む。




