第54話 ヴラド進攻!!!!
王の決断は早かった。
マリアとロルフという剣とレオンという盾を得て、勝機を感じとるやいなや、トルコ軍撃退から、コンスタンティノープル奪還へのすぐさま舵を切ってみせた。
自軍の少女兵がたったひとりで数万のトルコ兵をなぎ倒し、三人の将軍の首を刈り取ったという話を、近隣のバルト諸国に流布させると、それを各国との交渉材料につかった。
さらにキリアの帰属をめぐって交戦中であったモルドヴァのシュテファン公と和義を結ぶと、作戦への参加をとりつけた。
また今まで何度催促しても援軍をよこさなかったハンガリーのマーチャーシュには逆に抗義めいた親書を送りつけた。そこには、コンスタンティノープルを奪還しても、ハンガリーは何の協力もしなかったとローマ教皇ピウス二世に上申する、と書かれていた。
なかば脅迫であったが、ヴラドたちがドナウ川を渡河し、トルコ領に達することがあれば、ぜひ力を借りたいと結んでいた。
それは、決戦の時までには旗幟鮮明にせよ、という最後通蝶でもあった。
ブルガリアには密偵がはなたれた。
それまでも幾度となく、ブリガリア内の反トルコ派の手引きで渡河し、大虐殺と掠奪を繰り返してきたが、今回もそのコネクションを生かした。ヴラドの命を受けた商人たちは、ブルガリア領内に入り、ヴラド軍の圧倒的な軍事力を触れ回った。
だが、そのコネクションを使うまでもなく、すでにトルコ兵たちの足並みは乱れていた。それは前線からもたらされた兵士からの生の証言が、後続の兵士たちを畏怖させていたからだった。
幼女が何万という兵の中に飛び込んできて剣を振るい、精鋭イェニチェリまで殲滅する蛮行ぶりを目の当たりした者の恐怖は、多くの兵たちに伝播した。
メフメト二世はなりふりかまわぬ攻撃をしかけてきた。
それまでヴラドが得意としてきた奇襲を用いてきたのだ。元々はメフメト二世が得意とする戦法ではあったが、数や質で優位であるはずのトルコ軍にそこまでさせたのは、『蛮行の少女』の存在があったといってよかった。
ヴラド軍はこの奇襲にも動じることはなかった。




