第51話 掴まえる?。それあとにしてもらっていい?
「ちょっと、やらかしちゃったみたいね、あたし。で、おじさんたち、どうするつもり?」
「おまえを掴まえる」
「掴まえる?。ごめんなさい。それあとにしてもらっていいかしら?。あたしが司令官の首をちょん切ってからで……」
「なにぃ!」
取り囲んだ兵士たちが、一斉に気色ばんだ。と同時に兵士たちが腰から剣を引き抜いて、いつでも斬りかかれるように正面に構えはじめる。
が、マリアの剣はそれより速かった。
地面を踏みぬかんばかりに力をこめてジャンプすると、正面の大柄の兵士に飛びかかっていった。兵士の首をめがけて、マリアがてぶらのまま右腕を大振りする。
「ここを抜けられるものかぁ!」
正面の兵士はそう叫んだ。が、マリアの振り回した腕がその兵士の首元に近づいたときには、マリアの手はすでに具現化させた剣を握っていた。
次の瞬間にはその頭は、そのへらず口ごと刎ね飛ばされていた。
兵士の首から血柱がふきあがり、ぐらりと倒れていく。マリアはすぐさまその倒れかけた兵士の両肩に、足をかけて、思いっきり上に飛び上がった。
仲間があっという間に殺られて、周りの兵士たちが浮き足立った。剣を構えたまま、マリアの姿を目で追いかけて上をみあげる。
そこへ風が吹いてきた。
ロルフが放ってきた、弾丸のような風の飛礫。それが地面を這うようにして吹いてきて、兵士たちの足元をすくった。誰彼かまわずあたりにいた兵の足の肉を切り裂き、脚の骨をへし折る。
マリアが地面に降りたったときには、周りにいた兵士たちは軒並み、その場に転倒したまま呻き苦しんでいた。人だけではない。あたりの幕舎は崩れたり破られていたし、係留していた馬も犠牲になっていた。
隠密で行動したいたはずが、まるで台風にでも直撃されたようなあたりの有り様を見て、マリアはため息をついた。
まったく……、ロルフったら派手にやりすぎったらない。
さいごのエリアは面倒なことになりそうね。
マリアはそう覚悟したが、鎧兵部隊と騎馬兵団たちの駐屯エリアを向けたところで、覚悟した以上の兵士たちが待ち構えていることがわかった。赤い服、頭にターバン、そして腹にサッシュという出で立ち。
イェニチェリだった——。
彼らは容赦がなかった。騎馬兵団らとちがい、マリアになにかを尋ねることも、なにかを伝えることもなく、いきなり斬りかかってきた。一度に十人以上が一気に剣を抜いて、マリアのほうへ飛び込んでくる。機敏な動きと訓練されたフォーメーションで、マリアに逃げ場を与えない。
何本もの刃が、一斉にマリアのほうへ突き出され、横に振り向かれ、上から突き立てようとしてきた。
「ちょっとは遠慮しなさい!」




