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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
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第4話 昏睡病……『現世』の魂が『前世』の記憶に取り込まれ帰ってこれない病気

 昏睡病——

 二十世紀末からひそかに流行をはじめた奇病。それに罹患(りかん)したものは、その病名通り眠り続ける。脳波が目まぐるしい波形を描き、覚醒を証明しているにもかかわらず、寿命までこんこんと……。

 専門医からは「脳は活動していているのに、『魂』だけが、『自我』だけが、戻ってこない」。そんなイメージで語られる。

 

 だが、その『魂』は自らの、ある『遺伝子』に(から)めとられていた。


 だれもが『DNA』を通じて継承する『前世の記憶』という『遺伝子』に。


 もしそのなかに『沈潜』してしまったら、『魂』にそこから生還する方法はない。



 たったひとつの方法を除いて——


   ------------------------------------------------------------


『さすが、聖ちゃん。引き揚げ(サルベージ)成功よ』

 広瀬・花香里(ひろせ・かがり)は水底に沈んだまま眠っている、夢見・聖(ゆめみ・せい)の姿をガラス越しに眺めながらそう呟いた。

 そこは十メートル四方ほどの広さのプールが、2メートルほどの間隔で仕切られた施設だった。水深は一メートもなかったが、周りはすべて透明なガラスで仕切られ、四方から全部見えるようになっている。そのプールには仕切りごとに、大仰なアームが十数基もついた大型の機器が(しつら)えられており、その一部の配線やら端末部分がプールの中に張り巡らされていた。

 聖はそのプールの水底に、四肢を伸ばして横たわっていた。その顔にはゴーグル、口元には酸素を供給するマスク、そしてからだの各所にはセンサーが貼り付けられており、ヴァイタルデータを計測していた。

 ガラス面に映る自分の顔をかがりは覗き込んだ。

 むかしから学級委員長タイプだと言われてきた、まじめを絵に描いたような顔がそこにあった。どちらかといえば美人にはいるほうだという自負があったが、生来の性格のせいで、気をつかわずにすむような友人に恵まれたことはない。

  

 ふいに聖の隣の水槽に横たわっていたマリア・トラップが、がばっと体を起こして立ちあがると、大声で訊いた。

「おい、花香里(かがり)。あのしけたおっさんは、戻ってきたか?」

 かがりは思わず吹き出した。どんなときでも戻ってくるときは、いつもマリアが一番早い。むこうの世界でどんな活躍をしているかは、伝聞でしか知らなかったが、よっぽど結果に興味があるのだろう。

「マリア、大丈夫よ、目を醒ましたってお父さんが言ってたわ。それに、しけたおっさんじゃなく、ドナルド・カードさん……」

「そうよ、失礼よ、マリアさん。アメリカの次期大統領って言われている人ですよ」

 反対側の一角の水槽から、濡れた髪の毛の水滴を手で梳きながらエヴァ・ガードナーが口を挟んできた。

 最後に戻ってきたのは聖だった。聖はゆっくりとゴーグルと呼吸器を外しながら、プールからからだを起こしてきた。

「聖ちゃん。お疲れさまでした」

 かがりがバスタオルを差し出しすと、聖はすこし気落ちした様子で「かがり、今日も冴のいる時代じゃなかったよ」と一言だけ呟いた。毎回のことだったが、かがりはこんな時、なんて声をかけていいかわからず、いつも聖がプールからあがる様をじっと見守るだけだった。

「シャワー浴びてくるよ」

 聖はそれだけ言うと、出口のほうへ歩いていった。が、反対側からドアが開いて白衣姿の夢見輝男が部屋にはいってきた。

「お父さん」

 かがりが声をかけたが、父、輝男はうれしそうに目の前の半裸の聖をハグした。

「やぁ、聖。さすがだな。依頼人はワシントンのラボで、無事、覚醒したそうだよ」

「まぁ、簡単な敵だったからね」

「それだ。大統領候補なんて聞いてたのに、あんなしょぼい前世とはな。まったくがっかりしたぞ」

 タオルでからだを拭きながら、マリアが悪態をついた。

「マリア、なにを偉そうにしてらっしゃるの。あなたが倒したわけじゃないでしょう……」

「それはエヴァ。おまえも一緒だ」

「んまぁ、そうですが……。あの隊長は強すぎましたわ」

「時間があれば、オレだって倒せたぞ」

「時間があればでしょ……」

「はぁぁ。これでもオレは神の潜睡士ダイバー・オブ・ゴッドでは優秀なほうだったんだぞ」とマリアがため息まじりに愚痴をこぼした。

「それならわたしだって……。これでもマインド・ダイバー財団のS級エージェントのライセンス所持してるんですよ」

 マリアとエヴァの落ち込んでいる様子をかいま見て、かがりが尋ねた。

「ねぇ、聖はそんなに強いの?」


 マリアとエヴァがふたり同時に、バッとかがりのほうをみた。その勢いのあまり、まだぬぐいきれていない水滴が、かがりの顔に降りかかる。

「聖が強いか?、ですって」とエヴァがヒステリックな声をあげた。

 マリアがかがりの目を睨みつけて、忌々しげに言った。


「あんなに楽しそうに、人類の歴史をもてあそぶ奴は、ほかにいねぇよ」


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