第48話 司令官の首でもとってきますかね
「レオン、あたし、あなたのこと、たいがい不様だと思ってたけど、さすがに『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の末席に連なるくらいの力はあるようね」
レオンを見あげながらマリアが言った。
「末席……ね。まぁ、マリア。たしかにぼくの能力はキミほど派手じゃない」
「あら、そんなに卑下することないわ。案外こういった地味なもののほうが。実戦では役に立つものよ」
レオンはこれだけの能力を見せつけても、上から目線のマリアに少々辟易する思いだった。それでもヴラドからの、いやワラキア軍からの信認は得られたにちがいなかった。
マリアがすこしだけでも自分の力を認めたのだから——。
レオンはいつの間にか、ロルフよりもマリアに認められたことのほうが嬉しくなっていることに気づいた。おもわず苦笑する。
その時、ロルフ・ギュンターがヴラドに大見得をきった。
「それでは小手調べといきましょう」
「ロルフ、小手調べとはなにをするつもりだ」
「対岸のオスマン=トルコ軍の司令官の首でもとってきますかね」
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「というわけでぇ……、マリアちゃん、司令官の首をとりにいってくれるかい?」
ロルフが開口一番、かなり際どいことを頼んできたので、マリアは一喝した。
「【度し難い!】」
「またその日本語かい。やっぱり、これって難しいかね?」
「ちがうわ。なんであたしにそんな、『とりにいってくれるかい?』なーーんて、お願いするかってこと。『とってきてくれ』でよくないかしら?」
マリアは当たり前のことをただ指摘しただけだったが、まわりの臣下たちは思わず目をむいた。ヴラドとストイカ以外のワラキアの兵士たちは、まだこちらの力を信じていないのだとマリアは感じた。
「なるほど……。ンじゃあ、マリアちゃん、頼むよ。司令官の首っ。もちろんボクも精いっぱい援護するからサ」
「あったりまえでしょ。でも、誰の首とってくればいいのかしら?。ロルフ」
マリアはロルフに尋ねた。
「この軍の司令官カラジャ・パシャだ」
「カラジャ・パシャ……って誰?」
マリアは素直に疑問を口にすると、ロルフより先にノアが対岸のトルコ兵たちの幕舎のほうを指さしながら答えた。
「マリア、この指さした先にそのカラジャ・パシャがいるよぉぉ。ここからだとほかの幕舎に隠れて見えないけど、突き進んだ先にひときわ大きな幕舎があるぅ」
「どんなひとかわかるかしら?」
「ぼくの目には浅黒い顔をした白い髭の小太りの男が見えてるぅ。おそらくその男がそうだと思うよぉ」