第47話 レオンの本当の力
「もうすぐ反撃がはじまるぞ。どうするつもりだ、レオン!」
ヴラドが対岸の様子から目をはなさないまま威圧してきた。
レオンはそれに答えなかった。おおきく息を吸って目を閉じると、右手を前にもちあげた。くちのなかで呪文を転がすように詠唱する。そして突き出した右手の手首を左手でぐっとつかむと、そのまま斜め45度ほど上にもちあげた。手のひらに力がやどりはじめ、ブーンという音が聞こえはじめた。レオンは自分の手の先であたりの磁場が揺らいできていることがわかった。
そのとき、ドォォンという音とともに対岸で、煙が立ち昇った。空気を直接叩いたような振動が、鼓膜を揺さぶったかと思うと、こちら岸の川べりに砲弾が着弾した。さきほどワラキア軍が放ったものとは比較しようもないほどの大きな土砂の柱が噴き上がった。そこはワラキア軍が陣を囲まえる場所よりずいぶん前方だったがその破壊力はすぐにわかった。
「砲弾がこちら岸に届きましたよ!」
ストイカが咎めるように言ってきたが、ノアはさらに強い口調で否定した。
「あそこに兵はおりません!」
その時、あきらかに飛距騅が違うと思える砲弾が中空に撃ち放たれたのが目に入った。ほぼ同時に三発。まちがいなくワラキア軍に被害を与える弾道——。
「ああっ!、いけない」
ストイカが声をあげた。
が、その次の瞬間、その声が驚きの声にかわった。
三発の砲弾が空中で止まっていた。
山なりの放物線が落下にはいったところで、砲弾はクルクルと旋回したまま浮いているように見えた。飛んでくる砲弾から逃げだそうとしていたワラキア兵はみな。その光景に目を奪われていた。
だが、反撃を仕掛けたトルコ兵の反応はそんなものではなかった。対岸の兵士たちは空中を指さしながら、口々になにかを叫んでいた。遠めにみてもその反応から動揺が見てとれる。なかには跪いて神に祈っている者もいた。
やがて、とまった時間が動き出すと、砲弾がその場に直下していった。
「なにがおきた?」
ヴラドが落ち着いた声で尋ねた。驚きなど露ほども感じていないらしい。
「盾を空中に張ってるのサ。見えないヤツをね」
呪文を詠唱中のレオンに変わって、ロルフがヴラドに説明した。
「見えない盾……。ふむ、大砲や弓に対してはずいぶん役にたちそうだ。それが、彼の……、レオンの『力』というのだな」
「はい、彼は『音』を操ります。耳には聴こえない『超音波』という音を盾とする力です」