第43話 まぁ……、ひどい勝ち方だね
ロルフはやけにもったいぶった口調で言った。
ノアにはそう聞こえた。
よい結果なら、もっと力強く、鼓舞するように言ってもいいはずなのに、まるでそんなことはどうでもいい、と言わんばかりの投げやりな口調だった。
「勝つ?。勝つのか、殿が、あのオスマン=トルコ帝国に!」
ストイカが声を弾ませた。彼はロルフの語り口調などは無視して、そのもたらされた結果だけに飛びついた。だが、ブラドはちがった。
「どんな勝ち方をする?」
どすのきいた重々しい口調——。信じていないのではなく、その内容にこそ問題があると見抜いているようだった。
「まぁ……、ひどい勝ち方だね」
「ひどい勝ち方?。それは……」とストイカが声を詰まらせた。
「ドナウ川両岸での戦いは、河口のブライラで戦端をひらくんだけど、ワラキア軍はあの重火器ウルバン砲で一気に劣勢に追い込まれる。トルコ軍にドナウ川を渡られると、自分たちの領土の町や村を徹底的に焼き払いながら撤退するのさ。いわゆる『焦土作戦』っていうヤツだ。家畜を屠殺し、穀類は刈り取り、井戸には毒を投げ込む徹底した作戦で、トルコ軍はあっという間に疲弊していった。なにせ、占領地の掠奪や徴発でまかなうはずの兵糧や水が手に入らなかったからね」
「われながら、まちがいのない作戦だな」
ブラドが自分の行動を感心して口を差し挟んできた。
「隊列が乱れはじめたところに、あなたは夜襲を仕掛ける作戦にでた。本隊から離れた分隊や小隊はそれで全滅。さらに本隊にはペスト患者を送り込んだ。2億人を殺したペストの恐怖はだれもが知っていたので、勇敢な兵士すら逃げまどった。ワラキア兵はそこを狙って襲いかかった」
「だが、メフメトはわたしが夜襲や奇襲をおこなうことを予測していたはずだ。なによりも夜襲はあやつがもっとも得意とする戦法だったしな」
「だがあなたはその上をいった。メフメトは相当に注意をはらってたけどね、精鋭部隊イェニチェリの変装をして夜襲をかけられちゃあ、そりゃ大パニックでしょう。だってあなたは、イェニチェリとして訓練を受けてたんですからね。本物と区別がつきやしない。おかげでトルコ兵たちは同士討ちをはじめるまでになった」
「それで勝ったのかね」
「まだまだ……。メフメト二世があきらめると?。コンスタンティノープルを陥落させ、いくつもの国を征服したスルタンが、ワラキアごとき小国に負けるわけがない」
「ではどうやって撃退した?」
「殿、それはあなたが一番ご存知のはずでしょう。今もそのときのためにトルゴヴィシテの郊外に着々と準備してんでしょ」
「あの森か!」