第41話 おかげでジウルジウ城は我が手に落ちた
ヴラドは今度は満足そうな笑みをマリアにむけてきた。
ノアにはさきほど恫喝まがいに激高したのが嘘のようにみえた。
「ニコポル総督のハムザ・パシャは見事に罠にかかってくれたよ。数人の側近だけで会見場所に向かうと、予想通りひそんでいたトルコ守備隊に取り囲まれた、だがそのときにはその周りを、我がワラキア軍が取り囲んでいたのだ」
ヴラドはスープをスプーンですくいながら続けた。
「おかげでジウルジウ城は我が手に落ちた。わたしは守備隊全員を串刺し刑に処して、塩漬けにしたハムザ・パシャの首級を、ハンガリー国王マーチャーシュの贈物にした。ぜひ我々を支援するようにという意味でな」
ブラドがおいしそうにスープを味わった。まるでその話がスープのほどよいスパイスであるかのようだ。
「そのあと、我がワラキアは快進撃を続けたよ。我々はドナウ川を渡り、片っ端から人を殺し掠奪をし、街を焼いた。ニコポルからヴィデンにいたる広範囲のトルコ領を5日間にわたり蹂躙し、2万3千人を虐殺したよ」
ブラドはすこし恥じらうような笑みを口元に浮かべて続けた。
「家ごと焼き払われて数えられなかった者たちを除いてな……」
ノアはなにかがカチカチ、音を立てているのに気づいた。すぐ自分の耳の近くで耳障りなおとが鳴り止まない。おそるおそるレオンのほうを見ると、レオンは頭を抱えて、なにも聞きたくないという拒否するような姿勢になっていた。
彼でない——。この音はどこから——?。
そのとき、ノアは自分の歯がカチカチとなっていることに気づいた。恐怖に震える自分がたてる音に、息を飲んだ。
「それでもブルガリア人は殺さずにおいたよ。キリスト教に改宗するものはワラキアに移住を認めた。改宗を拒むものは……。まぁ、その一部はあの牢に閉じこめているのだがね」
ブラドは鼻高々に、己の蛮行の話を続けた。
「おみごとです。殿」
ロルフが称賛することばを口にした。ノアはうつむいた顔をガバッと跳ね起きさせるほど驚いた。
いまここで出てくることばは、誹謗や中傷のことばのはずだ。すくなくとも非難めいたものが混じっていなければおかしい。ましてや、褒め称えるなど——。
「それはどういうことかな?」
「殿。ドナウ川での戦果はどれほどキリスト教国に夢をもたらしたか、知ってンの?」
「ふむ。我々は戦いに明け暮れておったし、どこからも支援をもらえなかったから、ほかの国がどう思っているかなど考えておらんかったが……」