表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
382/932

第30話 コンスタンティノープル陥落3

 

 4月20日——。

 ジェノバ海軍がボスポラス海峡に到着する。その数、四隻。しかもそのうちの一隻は食料や資材を積んだ輸送船だった。

 140隻の船で待ち構えていた指揮官バルトル・スレイマンは手漕ぎボートであるガレー船で、ジェノバの軍船に近づいていく。だが、ジェノバの船は最新の大型帆船。手漕ぎで追いつけるわけがなかった。

 だが、ここでメフメトに運が傾く。

 金角湾を目の前にして、風がやんだのだ。

 火のついた矢を帆船に射掛けるオスマン軍。ジェノバ軍は燃え上がる船の消化におわれて、ガレー船の接近を許してしまう。だが、いざ船に乗り込もうとしたとき、バルトル・スレイマンは大型帆船の甲板までの高さが命とりになると気づかされた。

 下から網や紐をつたってあがっていく兵士は、甲板から突き下ろされる槍の餌食になっていった。あとすこしで帆船を沈められるところまで迫りながら、次々と兵士が海へと突き落とされていく

 そのとき、マルマラ海の気まぐれな風が吹きはじめた。


 メフメトの運もここまでだった。


 ジェノバの帆船は追い風を受け、痛手を被りながらも、四隻とも無事に金角湾に逃げ込むことに成功した。

 援軍の無事を祈っていたビザンチン帝国のひとびとの歓声が、都市中であがった。


 だがその日、メフメトは同時に地底からの攻撃をもしかけていた。

 セルビアの銀山から連れてきた炭坑夫たちに、自陣からトンネルを掘らせていたのだ。

 メフメトが『工作員』と呼んでいた炭坑夫たちは、壁の下までトンネルを通し、地下から難攻不落とされた壁を崩落させるのが任務だった。

 そしてこの日、その工作員のトンネルは首都の地下にまで達していた。

 だが、23回にもわたる攻略を受けてきたビザンチン帝国は、それをも見越していた。

 イギリス人ジョン・グラント率いる部隊が敵の行く先を調査し、その先に穴を掘って待ち受けていたのだ。

 その方法は、水をはった(たらい)を地面において、水面の動きで敵の位置を知るという原始的なものだったが、効果は抜群だった。

 グラントは西側から掘られてきた穴のなかに、『ギリシア火薬』を流し込んで火をつけた。この火薬は火薬に松脂をまぜたもので、即座に発火し長時間燃え続ける上、粘着性があるため、一度着火すると容易にははらえず、生きたままその身を焼き尽くした。

 古代版のナパーム弾のような凶悪な火薬だった。


 この夜、メフメトにもたらされたのは、最悪なふたつの結果だった。

 援軍をまんまと入港させ、トンネルのなかで何十人もの炭坑夫が焼け死んだ——。


 メフメトは完全に追い詰められていた。

 さらにイタリアのヴェネチアからさらに強大な援軍がくると噂されていた。40隻もの軍船が組織されて一ヶ月後には到着するというのだ。

 兵士の士気はおおきく削がれて、敗戦濃厚という空気があった。

 ハリル・パシャはビザンチン帝国内の有力者でギリシア人のノタラス公と、秘密裏に和平交渉を模索して、この地からの撤退を具体化しようとしていた。だが若きスルタンは内外に己の力を印象づける勝利が、どうしても欲しかった。


 その追い詰められた苦悩が、とんでもない閃きをもたらした。

 天才的とも狂人的とも思える、実現不可能ともいえる無謀な作戦だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ