第27話 さぁ、ヨーロッパ諸国をあっといわせましょう
マリアは心の中で舌打ちをしながらも、背中の剣に手をのばして、いつでも剣をひき抜ける準備をした。
だが、ロルフはまったく動じることはなく続けた。
「殿、わたしたちをご活用ください。イェニチェリなど問題になりません。トルコ軍を正面から撃破してみせましょう」
「ほう、わたしをまだ愚弄するつもりか?。よほど命が惜しくないらしいな」
「殿、殿はさきほどあの幼子、マリアの剣を体感されたかと存じますが……」
ヴラドは射るような流し目をマリアのほうへくれると、怒りをあふれさせた。
「だからなんだ。そなたたちで数万の敵を相手にできるわけなかろう」
ロルフは不敵な笑みをヴラドにむけた。
「それが、できるんだよねぇ」
さすがのマリアもロルフの口のききかたに驚いた。生来の軽薄なキャラクターを隠すこともなく、ヴラド・ドラキュラに軽口を叩いてみせている。レオンとノアの驚きはそんなものではないらしい。彼らは片膝をついたまま、ろう人形のような青白い顔でロルフの背中を見つめていた。
「殿、私たちはメフメト二世を殺すと言っているんだよ。夜襲でトルコ軍を追い返すんじゃなくて……」
「できるわけがなかろう!」
「殿、できるかできないかではなく、そうしたいかどうかで決めてくれないかな。まさか、殿はワラキアの安寧だけで満足されるつもり?。いつまでもハンガリーの言いなりで、トルコからの脅威にさらされ続けられる小国でいいの?」
「この小国で、それ以上なにか望めるとでもいうか!」
「望めばいいんじゃないかなぁ。ヨーロッパ諸国をあっといわせ、ローマ教皇から最上級の信頼を得るようなそんな大望を!」
「できぬものを夢想するほど、このヴラド、現実を知らぬわけではない」
「ここにミライからきた四つの切り札を手に入れたっていうのに?。殿は私たちという現実離れしたカードを手に入れたのですよ。現実に縛られても仕方ないっしょ」
驚いたことに今、ブラド三世という希代の狂人を相手にしながら、ロルフがイニシアティブをとっていた。あのブラドが言いように振り回されている。
「そう言いきるか。では私は何をおこなえば、そなたの言う圧倒的信頼と力を諸国に示めせるというのだ?」
「簡単なことですよ。殿……」
ロルフは、マリアがいままで見たことがない悪辣な笑顔を浮かべて言った。
「コンスタンティノープルを奪還するんです」