第25話 ですってよ。ドラキュラおじさん
「それって、ほんとう?。ロルフ」
マリアはロルフの目をじっと見つめて問いかけた。
どう考えてもおかしい。
マリアの頭の中で、それでは整合性がとれないという思いが渦巻いている。トルコの少年が自分の主であるメフメト二世の死を希うなどということがあるだろうか?。
だが、ロルフはこれ以上ないほどやさしげな顔で「ああまちがいない」と言った。
マリアは疑念を払拭できなかったが、笑みを顔いっぱいに広げてみせると、牢の脇で警備をしている警備兵にむかって言った。
「ですってよ。ドラキュラおじさん」
警備兵はマリアに見つめられても動じることはなかった。が、ストイカが軽く頷くと、観念したように頭をすっぽり覆っていたフードをゆっくりと脱いだ。
「いつからわかっておった?」
ヴラドがマリアを睥睨しながら言った。
「あら、最初からよ。あたしだけでなくみんなもね」
「ほう、なぜわかった?」
「自分の体からどれだけ邪気がでてると思って?。あたしたちにはあなたは、どす黒い悪意の煙をまとっているようにしかみえないわ」
マリアは大袈裟に肩をすくめてみせた。
「まぁ、まともじゃないわ。人間離れしているもの」
「マリアちゃん、いいすぎだ!」
ロルフが強い口調で注意してきた。だが言われた当のヴラドは、すっかり悦にいっているようだった。
「ふふふふ……、そうか、わたしは人間離れしているか」
ロルフは真顔になると、杓子定規に詫びのことばを口にした。
「殿。申し訳ありません。その子の、マリアの非礼をお許しください」
「いや、構わん。ところで、メフメト二世を殺すというのは本気か?」
「はい。その少年、ジグムントがそう望んでおります。私たちはその願いを叶えるために未来から送られてきたことがわかりました」
ヴラドがジグムントを見た。彼はその鋭い眼光に萎縮して、うしろにあとずさりした。
「ふん、イェニチェリを目指そうというのに、まったくなっておらんな」
「その少年は本当にオスマン帝国の者なのですか?」
レオンが少年に目をむけたまま、だれに聞くともなしに言った。
「彼はトルコ人には見えませんね」
「当然ですよ」
ストイカがレオンに答えた。
「イェニチェリはキリスト教徒の若者を洗脳して、殺人集団にしたてあげたものです。ですからトルコ人とは見た目がちがいます」
ヴラドが牢のなかのジグムントに目をやると、自嘲気味に口元を緩めて言った。